「大手が同じ商品を、うちより安く出してきたんです」。
そんな相談を、経営者の方から受けることがあります。長年かけて築いてきた市場に、資本力のある大企業が入ってくる。価格でも、広告でも、とても敵わない。このまま、飲み込まれてしまうのではないか。その不安は、経営者にとって、身を切られるようなものだと思います。
正直に申し上げます。資本、人材、規模、ブランド。こうした土俵で、中小企業が大企業と正面からぶつかっても、勝ち目はほとんどありません。それは、認めるほかない現実です。
けれど、勝てる戦い方が、一つだけあります。
大企業が「やりたくてもできないこと」で、勝つ。これが、中小企業に残された、唯一にして最強の戦い方だと、私は思っています。
大企業には、大企業の弱みがある
大企業は、確かに強い。けれど、その強さの裏側には、必ず弱みがあります。
組織が大きいぶん、意思決定に時間がかかる。一つの案件を動かすのに、いくつもの承認が必要になる。ルールや前例に縛られ、小回りが利かない。そして、規模を維持するために、どうしても「大きな売上が見込める案件」を優先せざるを得ません。
裏を返せば、小さな案件、細かな要望、一人ひとりに合わせた対応。こうした「手間はかかるが、儲けの薄い領域」は、大企業にとって、割に合わない仕事なのです。
大企業の強みが届かない場所にこそ、中小企業の戦場があります。
私は、大手の内側も見てきました
私は営業の現場を、30年以上歩いてきました。そのなかで、NTTデータという大きな組織で、ソリューション営業を経験したこともあります。
大きな組織には、大きな組織にしかできない仕事があります。それは間違いありません。同時に、内側から見て感じたのは、大きいがゆえの動きにくさでした。一つの判断に、多くの人と時間が関わる。目の前のお客様に「すぐやりましょう」と即答することが、必ずしも簡単ではない。
一方、自分が小さな会社を営んできた経験からは、逆のことを実感しています。経営者が「やる」と決めれば、その日から動ける。お客様の顔を思い浮かべながら、その人だけのために、細かく手を尽くせる。この身軽さと近さは、大企業には、なかなか真似のできないものです。
大きさと小ささ、その両方を見てきたからこそ、中小企業の強みが、どこにあるのかが分かるのです。
「狭く、深く」が、小さな会社の武器になる
では、具体的にどう戦うのか。鍵は、「狭く、深く」です。
大企業は、広く、大きく攻めます。ならば、中小企業は、その逆をいく。対象を思い切り絞り込み、その狭い領域で、誰よりも深くなる。「この分野なら、この地域なら、あの会社が一番だ」。そう言われる存在になることです。
以前、『すべての弱みを直そうとする経営は、なぜ資源を浪費するのか』という記事で、限られた資源は集中させるべきだと書きました。大企業との戦いでは、これが決定的に効いてきます。あれもこれもと手を広げれば、資源で勝る大手に、必ず薄められて負けます。一点に絞り、そこに全資源を注ぎ込む。狭い土俵でなら、小さな会社でも一番になれるのです。
広さで負けても、深さでなら勝てる。これが、小さな会社の生きる道だと、私は思っています。
近さと速さと、人の顔
もう一つ、中小企業ならではの武器があります。お客様との「近さ」です。
経営者自身が、お客様と直接向き合える。一人ひとりの事情を覚え、細やかに応え、困ったときにはすぐ駆けつける。この距離の近さと対応の速さは、組織の大きな会社には、構造上、なかなか出せません。
そして、その近さの先に生まれるのが、信頼です。「あの人だから頼む」という関係。これは、資本では買えません。時間をかけて、誠実に積み重ねるしかない。だからこそ、大企業が最も真似しにくい、中小企業の切り札になります。以前も書きましたが、私が業界を変えても、お客様が私という人間を信頼して頼ってくださった。あの経験こそ、近さと信頼の力の証しでした。
おわりに
中小企業が、大企業と同じ戦い方をしてはいけません。資本で、規模で、広さで張り合えば、消耗し、飲み込まれてしまいます。
勝つための道は、大企業がやりたくてもできないことに、集中することです。狭く、深く。近く、速く。そして、人と人との信頼を、こつこつと積み重ねる。どれも地味ですが、小さな会社だからこそ徹底できる戦い方です。
小ささは、弱さではありません。使い方しだいで、大企業には決して持てない、強力な武器になる。私は、そう信じています。
当社では、社外CFOとして、また営業・DXの視点から、中小企業ならではの強みを見極め、大企業とは違う土俵で戦うための戦略づくりを、現場目線でお手伝いしています。大手との競争に悩んでおられるときは、ぜひお気軽にご相談ください。