「創業計画書って、結局どこまで詳しく書けばいいんでしょうか」。
創業前の方から、いちばんよくいただく質問のひとつです。書式は公庫や自治体のサイトからダウンロードできる。項目も決まっている。けれど、いざ埋めようとすると、手が止まる。何をどこまで書けば「通る」のか、誰も教えてくれないからです。
私は、この書類は「書き方」の問題である前に、「誰に向けて書くか」の問題だと思っています。相手を思い浮かべずに書いた計画書は、たいてい、熱意だけが並んだ紙になってしまう。
今日は、そのことについてお話ししたいと思います。
創業計画書は、夢を語る紙ではない
創業計画書を書くとき、多くの方が、まず「思い」から書き始めます。なぜこの事業をやりたいのか。どんな社会にしたいのか。もちろん、大切なことです。動機の欄があるのですから、書かないわけにもいきません。
けれど、読む側の目線に立ってみると、少し景色が変わります。
金融機関の担当者が知りたいのは、この人が返せるかどうか、ただ一点です。
冷たい言い方に聞こえるかもしれません。でも、彼らも組織の中で稟議を通す立場です。上司に説明できる材料がなければ、どれだけ応援したくても、前に進められない。つまり創業計画書とは、目の前の担当者が、その先の決裁者に説明するための材料集なのです。
そう考えると、書くべきことが見えてきます。熱意は、根拠の隣に置いてはじめて意味を持つ。順番の問題です。
数字は、大きさよりも「どこから来たか」を見られる
売上予測の欄で、多くの人がつまずきます。実績がないのだから、根拠のある数字など書けるはずがない。そう思って、えいやと数字を置いてしまう。
ですが、審査で見られているのは、金額そのものではありません。その数字が、どういう筋道で出てきたかです。
たとえば飲食店なら、席数×回転数×客単価×営業日数。BtoBのサービスなら、月の商談件数×成約率×単価。この掛け算の一つひとつに、「なぜその数字なのか」の説明がついているかどうか。そこが分かれ目になります。
回転数を2.5回と置いたなら、なぜ2.5なのか。近隣の同業を見て歩いた結果なのか、前職での経験値なのか。根拠は、必ずしも統計データである必要はありません。自分の足で確かめたことでいい。むしろ、そのほうが説得力があります。
逆に、月商の欄に切りのいい数字だけが並んでいると、それだけで話が止まります。数字は、正確さよりも、追跡できることのほうが大事なのです。
この考え方は、以前、『融資・投資で通る事業計画書の作り方|創業期に押さえるべき6つの要素』という記事でも書きましたが、創業計画書でも根っこは同じだと感じています。
経歴の欄は、履歴書ではなく「つながり」を書く
私が創業計画書のなかで、いちばん軽く扱われがちだと思っているのが、経歴の欄です。
ここを、単なる職歴の羅列で終わらせてしまう方が、本当に多い。何年にどこの会社、何年に転職、と並べただけ。もったいないと思います。
この欄で示すべきは、これまでの経験と、これから始める事業とが、どうつながっているかです。
私自身、為替の仲介、保険、ITと、業界を渡り歩いてきました。傍から見れば、一貫性のない経歴に映るかもしれません。実際、起業して自分の経歴を整理したとき、これをどう説明したものかと、しばらく考え込みました。
けれど、書き出してみると、案外つながっている。為替の現場で叩き込まれた即応の感覚。保険で覚えた、お客様の人生に踏み込んで話を聞く姿勢。ITで身につけた、仕組みで考える癖。バラバラに見えた三つが、中小企業の経営を支援するという一点で交わっていた。
経歴は、並べるものではなく、意味づけるものです。
読む側は、事業内容そのものよりも、「この人にこの事業ができるのか」を見ています。前職での担当分野、扱っていた商材、そこで身につけた具体的な力。それを、これから始める事業と結びつけて書く。地味な作業ですが、ここを丁寧にやった計画書は、明らかに読み手の反応が変わります。
制度融資は、窓口が一つではないと知っておく
創業融資というと、日本政策金融公庫を思い浮かべる方が多いと思います。もちろん有力な選択肢です。詳しくは『創業融資の審査に通るコツ|日本政策金融公庫を活用する方法』のほうに書きました。
ただ、自治体の制度融資という道もあります。こちらは、自治体・金融機関・信用保証協会の三者が関わる仕組みです。窓口が複数あるぶん、手続きに時間はかかりますが、利子補給や保証料補助が受けられる場合もある。詳しくは『制度融資とは?創業期のスタートアップが使える地方自治体の融資制度』のほうに書きました。
大事なのは、どちらか一方に絞り込む前に、両方の要件を眺めてみることです。自己資金の要件、対象となる業種、必要な書類。要は、選択肢を知らないまま一つに賭けてしまうのが、いちばんもったいない。
そして、どちらを選ぶにせよ、面談があります。ここで問われるのは、計画書に書いたことを、自分の言葉で説明できるかどうか。誰かに作ってもらった計画書だと、この場で必ず露見します。
おわりに
創業計画書を書く作業は、正直、面倒です。埋めても埋めても、根拠を問われる。書いては消し、また書き直す。
けれど、この面倒くささには意味があると、私は思っています。書きながら、自分の事業の弱いところが見えてくる。数字の前提が甘かったこと、想定していた客層があいまいだったこと。それに気づけるのは、開業前の今しかありません。
審査を通すために書く書類ではあるのですが、結果として、いちばん役に立つのは自分自身なのだと、私は思っています。
一人で数字と向き合っていると、どうしても筆が止まる瞬間があります。もしお困りのことがあれば、ぜひお気軽にご相談ください。現場目線で、一緒に考えていきたいと思っています。