「今期も、営業利益は出てるんですよ。それなのに、なぜか手元にお金が残らないんです」。
ある経営者の方から、そんな言葉を聞いたことがあります。決算書を見せていただくと、たしかに営業利益は黒字。数字の上では、稼げている会社です。けれど、社長ご本人には、稼いでいる実感がまったくない。
私は、この「実感とのズレ」こそが、いちばん大事なサインだと思っています。営業利益は、会社の稼ぐ力を測るための、大切な指標です。けれど、それだけでは、まだ半分しか見えていない。
今日は、そのことについてお話ししたいと思います。
営業利益は、稼ぐ力の「入口」にすぎない
営業利益は、本業でどれだけ儲けたかを示す数字です。売上から原価と経費を引いた、いわば会社の実力値。だから、多くの経営者がここを一番気にします。それは、間違っていません。
けれど、営業利益は、あくまで「一年間の成績」です。しかも、会計というルールの上で計算された成績です。
売上として計上されていても、まだ入金されていないお金があります。在庫として棚に積まれている商品も、帳簿の上では資産です。減価償却費は、現金が出ていかないのに費用として引かれます。
つまり営業利益という数字は、実際のお金の動きとは、けっこうな距離があるのです。
営業利益は、稼ぐ力の結果ではなく、稼ぐ力を測るための材料の一つ。
そう捉えるだけで、決算書の見え方が変わってくるように思います。
お金が残らない会社には、必ず理由がある
営業利益が出ているのにお金が残らない。この状態には、たいてい原因があります。
- 入金より先に支払いが来る、資金サイクルのねじれ
- 売れ残った在庫に、お金が形を変えて眠っている
- 借入の元金返済が、利益を超えて出ていっている
- 設備投資の負担が、想定より重くのしかかっている
どれも、営業利益という一行を眺めているだけでは、見えてこないものです。以前、『キャッシュフロー経営とは?利益が出ているのにお金がない理由』という記事でも書きましたが、利益と現金は、別のものとして見る必要があります。
稼ぐ力とは、要は「お金を生み出し続けられる力」です。一年間の成績ではなく、来年も、その次の年も、同じように現金を生み出せるかどうか。
そう考えると、見るべき数字は、営業利益の先に広がっていきます。
私は、数字を「読む」のに時間がかかった
偉そうに書いていますが、私自身、数字を経営の言葉として読めるようになるまで、ずいぶん時間がかかりました。
為替仲介の世界にいた頃は、目の前のレートと、その日の約定にすべての神経が向いていました。数字は毎日追っていたはずなのに、あれは相場の数字であって、会社の数字ではなかったのです。保険、ITと業界を渡り歩いても、営業として見ていたのは、売上と目標達成率でした。
変わったのは、自分で会社をやり始めてからです。
売上が立った、と喜んだ翌月に、入金がまだ来ていない。経費の支払いは待ってくれない。あの、通帳を眺めながらの、少し息が詰まるような感覚は、今でもよく覚えています。
そのとき、はじめて腹に落ちたのです。会社を生かしているのは、利益ではなくお金の流れだ、と。
中小企業診断士の勉強で財務を学び直したのも、そのあとでした。順番としては、遅かったかもしれません。けれど、実感が先にあったから、教科書の言葉が生きた知識になった。そう思うようにしています。
稼ぐ力は、一枚の数字ではなく「並べ方」で見える
では、何を見ればいいのか。私は、特別な指標を追う必要はないと考えています。むずかしい分析より、地味な並べ方のほうが、よほど効きます。
たとえば、営業利益を三年分並べてみる。上がっているのか、下がっているのか。粗利率も、同じように並べてみる。売上が伸びているのに粗利率が下がっているなら、それは値引きで数字をつくっている可能性があります。
そして、営業利益と、実際の現金の増減を並べてみる。この二つが離れているとき、その差額のなかに、会社の課題が隠れています。
数字は、一枚では語りません。並べたときに、はじめて何かを語り出す。
以前、『月次決算を経営に活かす方法|数字を「見るだけ」で終わらせない』という記事でも触れましたが、年に一度の決算書だけでは、この並べ方ができません。月ごとに見ていくからこそ、変化の兆しに気づける。案外、そこが分かれ目になります。
おわりに
本当の稼ぐ力を測るというのは、たいそうな分析をすることではなく、営業利益という一行の先へ、もう一歩だけ目を伸ばすことだと思っています。お金がどこで生まれ、どこで消えているのか。それを、自分の言葉で説明できるようになること。
地味で、少し面倒な作業です。けれど、この一歩を踏んだ経営者の方は、銀行との会話も、投資の判断も、明らかに変わっていきます。数字が、判断の材料になるからです。
稼ぐ力は、勘ではなく、見える形にできる。そしてそれは、会社の規模にかかわらず、誰にでもできることだと、私は思っています。
一人で決算書と向き合っていると、どこを見ればいいのか分からなくなることもあると思います。もしお困りのことがあれば、ぜひお気軽にご相談ください。現場目線で、一緒に考えていきたいと思っています。