「私は、どうも数字が苦手でして」。
経営者の方と話していると、こうした言葉を、よくうかがいます。
決算書を見ても、頭に入ってこない。財務の話になると、つい身構えてしまう。そんな声を、数えきれないほど聞いてきました。
ですが、苦手の本当の理由は、計算が得意か不得意か、ではないのです。
「苦手」の正体は、計算力ではない
財務が苦手だという方の多くは、自分を「数字に弱い人間だ」と思い込んでいます。
けれど、話をよく聞いてみると、計算ができないわけではありません。むしろ、日々の商売のなかで、値づけや原価の感覚は、鋭く持っておられます。
本当の苦手意識は、別のところにあります。決算書に並ぶ言葉が、自分の会社の「現実」と、どうつながっているのかが、見えないのです。
数字が、自社の実感と結びつかない。だから、遠く感じる。苦手の正体は、そこにあることが、ほとんどです。
数字は、現実とつながって初めて意味を持つ
決算書は、会社の一年間を、数字に翻訳したものです。
ですが、その翻訳が、経営者ご自身の実感と切り離されていると、ただの記号の羅列に見えてしまいます。「利益が出ている」と書いてあっても、手元にお金がない。この食い違いが、数字への不信を生みます。
逆に、数字が現実とつながった瞬間、財務は一気に身近になります。「この数字は、あの取引のことだ」「この数字が動いたのは、あの月に無理をしたからだ」。そう腑に落ちたとき、数字は、生きた道具に変わります。
苦手を克服する近道は、計算の勉強ではありません。数字と、自社の現実を、丁寧に結び直すことです。
私も、数字と長く格闘してきた
偉そうに書いていますが、私自身、数字とは長く格闘してきました。
中小企業診断士の資格に挑み続け、合格までに14年かかりました。実に、12回目の挑戦です。財務の分野は、何度もつまずいた領域のひとつでした。
そして創業したころには、経理も財務も一人で担い、資金繰りに追われる日々を過ごしました。数字が、これほど重く、これほど手強いものかと、身にしみて感じたものです。
だからこそ、分かります。財務が苦手だと感じるのは、恥ずかしいことでも、経営者失格でもない。ただ、数字と現実がつながる「きっかけ」に、まだ出会えていないだけなのだと。
数字より大事なこと
財務の話をすると、意外に思われるかもしれません。ですが、私は、数字そのものより、大事なことがあると考えています。
それは、「数字を、どう経営の判断につなげるか」という姿勢です。
数字を完璧に読めなくても、経営はできます。大切なのは、数字が発している声に、耳を傾けようとする気持ちです。分からなければ、分かる人に聞けばいい。一人で抱え込む必要は、ありません。
以前、『資金繰りの弱点は、隠すより「伝え方」で信用に変える』という記事でも書きましたが、弱みは、隠すより向き合うほうが、力に変わります。財務への苦手意識も、同じです。
おわりに
経営者が財務を苦手と感じる、本当の理由。それは、数字と自社の現実が、まだ結びついていないからです。
計算が得意になる必要は、ありません。数字の向こうにある、自社の現実を読み取ろうとすること。分からないところは、遠慮なく伴走者に頼ること。それだけで、財務は、ぐっと身近になります。
数字は、経営者を裁くためのものでは、ありません。より良い判断のために、そっと背中を押してくれる道具です。そう思えたとき、苦手意識は、少しずつほどけていく。14年かけて数字と向き合ってきた自分の経験からも、そう感じています。
数字は、一人で向き合わなくていい。隣で一緒に読み解く人がいれば、それでいいのだと、私は思っています。
財務との向き合い方や数字を使った経営判断について、お困りのことがあれば、ぜひお気軽にご相談ください。