「うちの会社の価値は、いくらだと思いますか」。
経営者の方から、そう問われることがあります。多くの場合、その方の頭の中にあるのは、決算書に並んだ数字です。現預金がいくら、不動産がいくら、機械や在庫がいくら。確かに、それらは会社の価値の一部です。目に見えて、金額もはっきりしている。分かりやすい資産です。
けれど、私はいつも、こう思うのです。その会社の本当の価値は、決算書に載っていない部分にこそある、と。
会社の値打ちを決めるものの多くは、貸借対照表には現れません。
お客様との信頼、社員の技術、長年培ったノウハウ、地域での評判。こうした「目に見えない資産」を、経営者はどう捉え、どう育てていけばいいのか。今回は、この難しい経営課題について、お話ししたいと思います。
決算書に載らない資産が、会社を支えている
目に見えない資産、いわゆる無形資産には、さまざまなものがあります。
お客様が「あの会社なら安心だ」と感じてくれる信頼。社員一人ひとりが積み上げてきた経験と技術。トラブルへの対応の速さ。取引先との、長年の関係。どれも、金額では書き表せません。けれど、これらがなければ、会社は一日たりとも回りません。
むしろ、有形の資産が同じでも、この無形資産の差で、会社の実力はまったく変わってきます。同じ設備、同じ規模の二社があったとして、片方には厚い信頼と熟練の人がいて、もう片方にはそれがない。両者の価値が同じだとは、誰も思わないでしょう。
数字に表れないものこそ、その会社の本当の背骨なのだと、私は感じています。
目に見えないから、軽く扱われてしまう
ところが、この無形資産には、やっかいな性質があります。
目に見えず、金額もつかないために、つい軽く扱われてしまうのです。
経営者は、どうしても数字で見えるものに、意識が向きがちです。売上、利益、コスト。これらは毎月、はっきりと目に入ります。一方、信頼や技術やノウハウは、決算書に一行も出てきません。だから、「大切だ」と口では言いながら、実際には後回しにされ、じわじわとすり減っていく。
たとえば、ベテラン社員が一人辞める。数字の上では、人件費が一人分減っただけに見えます。けれど、その人が抱えていたお客様との関係や、長年の勘は、決算書のどこにも計上されないまま、静かに失われます。目に見えないからこそ、失って初めて、その大きさに気づくのです。
私自身、目に見えない資産に助けられました
この無形資産の力を、私は自分の営業人生で、何度も実感してきました。
為替の世界で担当していたお客様が、私が生命保険の世界に移った後も、業界の壁を越えて、私を頼って契約してくださったことがあります。商品はまったく別のものでした。それでも選んでくださったのは、私という人間への信頼、それまで築いてきた関係という、目に見えない資産があったからです。
あのとき動いたのは、決算書のどこにも載らない資産でした。けれど、それこそが、私を支えてくれた最も確かなものだったのです。以前、『努力・歴史・真面目さは、強みではない』という記事で、積み重ねを強みに翻訳する話を書きましたが、無形資産も同じです。持っているだけでなく、それを意識し、育て、生かして、はじめて力になります。
目に見えない資産を、どう扱うか
では、金額のつかない資産を、経営の中でどう扱えばいいのか。完璧に数値化する必要は、ありません。大切なのは、まず「意識する」ことです。
自社にとっての無形資産は何か。それを一度、書き出してみる。お客様との関係、社員の技術、独自のノウハウ、評判。目に見えないものを、あえて言葉にして並べてみる。それだけで、これまで見過ごしてきた資産の輪郭が、見えてきます。
そして、それを「減らさない」「増やす」という視点を、経営判断に組み込む。この打ち手は、目に見えない資産を、すり減らしていないか。あるいは、育てているか。数字だけでは測れないこの問いを、判断のたびに一つ加える。それだけで、経営の質は変わってくるのだと、私は思っています。
おわりに
会社の価値は、決算書だけでは測りきれません。むしろ、その会社を本当に支えているのは、数字に表れない、目に見えない資産のほうかもしれません。
信頼、技術、人、関係、評判。金額はつかなくても、これらが会社の底力です。目に見えないからと軽んじれば、静かに失われる。意識して育てれば、有形の資産以上に、長く会社を支えてくれる。
見えないものを、見ようとすること。測れないものの価値を、認めること。それが、これからの時代の経営者に、いっそう求められる目線なのだと、私は信じています。
当社では、社外CFOとして財務の数字を見つめると同時に、決算書に表れない無形資産にも目を向け、経営者の皆さまが自社の本当の価値を捉え、育てていくお手伝いを、現場目線で行っています。数字だけでは測れない自社の強みを見つめ直したいときは、ぜひお気軽にご相談ください。