「うちは、真面目にコツコツやってきました。それが強みです」。
経営者の方に強みをうかがうと、こうしたお答えが返ってくることがあります。長年、誠実に努力を重ねてこられた。創業から何十年と、地道に続けてこられた。その歩みには、心から頭が下がります。私自身、地味なことの価値を、誰よりも信じている人間のつもりです。
だからこそ、あえて申し上げたいことがあります。
努力も、歴史も、真面目さも、それだけでは強みにはなりません。
厳しく聞こえたら、申し訳ありません。けれど、これは、そうした美点を否定する話ではないのです。むしろ、せっかくの美点を、きちんとお客様に届く「強み」に変えていただきたい。今回は、その話をさせてください。
なぜ、それらは強みにならないのか
理由は、シンプルです。努力も、歴史も、真面目さも、「お客様が選ぶ理由」に、直接はならないからです。
少し、お客様の立場になってみてください。「うちは真面目に努力しています」と言われて、それだけで発注を決めるでしょうか。おそらく、決めません。真面目に努力している会社は、世の中にいくらでもあります。真面目であることは、いわば当たり前の前提であって、他社との違いにはならないのです。
創業何十年、という歴史も同じです。長く続いていること自体は立派ですが、お客様が知りたいのは「長く続いた結果、自分にどんな良いことがあるのか」です。
強みとは、他社と比べたときの「違い」であり、お客様にとっての「得」です。努力や歴史や真面目さは、その手前にある、大切な土台。けれど、土台そのものは、まだ強みではないのです。
「努力」を、お客様の言葉に翻訳する
では、これらは無意味なのでしょうか。もちろん、そんなことはありません。
努力も歴史も真面目さも、「翻訳」すれば、立派な強みに変わります。
たとえば「真面目にコツコツやってきた」。これを、お客様にとっての得に翻訳してみます。真面目にやってきたから、「納期を一度も落としたことがない」。コツコツ続けてきたから、「同じ担当者が10年、同じお客様を担当し続けられる」。そう言い換えた瞬間、それはお客様が選ぶ理由になります。
歴史も同じです。「創業50年」ではなく、「50年分の失敗事例が蓄積されているから、御社が同じ失敗をしなくてすむ」。ここまで翻訳して、はじめて歴史は強みになります。
努力や真面目さは、あくまで「原因」です。それが生んだ「結果」を、お客様の言葉で語れて、はじめて強みになるのだと、私は思っています。
私自身、翻訳が足りていませんでした
偉そうに書いていますが、私自身、長くこの翻訳ができていませんでした。
私は営業を30年以上続け、為替、保険、ITと業界を渡り歩いてきました。中小企業診断士の資格には、14年をかけ、12回目でようやく合格しました。振り返れば、努力だけは、してきたつもりです。けれど、以前の私は、それを「頑張ってきました」としか語れていませんでした。
頑張ってきたこと自体は、お客様には関係のない話です。大事なのは、その積み重ねが、お客様にとって何の役に立つのか。複数の業界を経験したからこそ、業界の壁を越えて課題の本質が見える。何度も落ちた経験があるからこそ、うまくいかない経営者の焦りに、心から寄り添える。そう語れるようになって、ようやく自分の歩みが、支援の現場で生きるようになった気がします。
努力は、語り方を変えるだけで、価値の伝わり方がまるで違ってくるのです。
翻訳できないなら、まだ強みは眠っている
以前、『「強み」を定義できない経営者が、価格競争に沈む理由』という記事で、強みを言葉にできない会社は価格競争に沈む、と書きました。今回の話は、その一歩先です。
努力や真面目さを、お客様の得に翻訳できていないうちは、強みはまだ、眠ったままです。宝が、地中に埋まっている状態です。掘り起こし、磨き、お客様の言葉に変える。この作業をした会社だけが、その宝を、選ばれる理由として使えるようになります。
翻訳の作業は、地味で、時間もかかります。けれど、あなたの会社が積み重ねてきた努力を、無駄にしないための、大切な一手間なのです。
おわりに
努力も、歴史も、真面目さも、それ自体はかけがえのないものです。決して軽んじているわけではありません。むしろ、その尊い積み重ねを、きちんとお客様に届く形に変えていただきたい。それが、この記事で申し上げたかったことです。
「頑張ってきた」で止めない。その頑張りが、お客様に何をもたらすのかまで、言葉にする。そこまでやって、努力ははじめて、選ばれる強みに変わるのだと、私は信じています。
あなたの会社が黙々と続けてきたことの中に、まだ言葉になっていない強みが、きっと眠っています。それを一緒に掘り起こすことが、私の仕事の一つだと思っています。
当社では、社外CFOとして、また営業の視点から、経営者の皆さまが自社の積み重ねを「お客様に伝わる強み」へと翻訳するお手伝いを、現場目線で行っています。頑張ってきたのに、なぜか伝わらない。そう感じておられるときは、ぜひお気軽にご相談ください。