「うちの強みは、技術力です」。
ものづくりの会社の経営者の方から、そうお聞きすることがあります。長年、腕を磨き、他社には負けない技術を積み上げてきた。その自負は、本物です。だからこそ、胸を張って「技術力が強みだ」とおっしゃる。
けれど、私は、その言葉を聞くたびに、少しもどかしい気持ちになります。なぜなら、「技術力があります」という一言は、お客様に、ほとんど何も伝えていないからです。
「技術力がある」は、言っているようで、何も言っていない言葉です。
厳しく聞こえたら、申し訳ありません。技術そのものを軽んじているのではないのです。むしろ、せっかくの技術を、きちんとお客様に届けていただきたい。今回は、その話をさせてください。
なぜ、この言葉は伝わらないのか
理由は、シンプルです。「技術力がある」と言う会社が、世の中に、あまりに多いからです。
少し想像してみてください。あなたが何かを発注する側だとして、複数の会社のパンフレットを見比べたとします。おそらく、そのどれにも「確かな技術力」「高い品質」と書かれています。全社が同じことを言っている。これでは、比べようがありません。結局、お客様が違いを判断できる材料は、価格くらいになってしまいます。
以前、『「強み」を定義できない経営者が、価格競争に沈む理由』という記事で書きましたが、強みを具体的に語れない会社は、価格でしか比べられなくなります。「技術力がある」という言葉は、まさにその典型なのです。抽象的すぎて、他社との違いにならない。
お客様は「技術」を知りたいのではない
そもそも、お客様が本当に知りたいのは、何でしょうか。
それは、「その技術が、自分にどんな良いことをもたらすのか」です。
お客様は、技術そのものが欲しいわけではありません。その技術によって、自分の困りごとが解決されること。手間が減ること。安心できること。それが欲しいのです。作り手が「技術力」と呼んでいるものを、お客様の側の「得」に翻訳してあげないと、価値は伝わりません。
これは、私が営業の現場で、ずっと痛感してきたことです。私は為替、保険、ITと、専門性の高い商品を扱ってきました。どの世界でも、専門用語や技術の話をそのままぶつけても、お客様には響きませんでした。「それは、あなたにとって、こういう意味があります」。そう翻訳して、はじめて話が前に進んだのです。
「技術力」を、具体に落とす
では、どう翻訳すればいいのか。やることは、一つです。抽象的な「技術力」を、具体的な事実に、とことん落としていくことです。
「加工の技術力があります」。これを、掘り下げてみます。何ができるのか。「0.01ミリの精度で加工できます」。それが、お客様にとって何を意味するのか。「だから、他社では削り出せない部品も、御社の製品に使えます」。さらに、その先は。「結果として、御社の製品の性能が上がり、競合と差がつきます」。
ここまで具体に落として、はじめて「技術力」は、お客様が発注する理由に変わります。
数字、事例、他社との違い、お客様にとっての結果。こうした具体で語れないうちは、その技術力は、まだ言葉になっていないのと同じです。宝を持っているのに、伝わる形にできていない。とても、もったいないことです。
翻訳できる人が、社内にいるか
ここで、一つの壁があります。技術を持っている人ほど、それを翻訳するのが苦手だ、という壁です。
職人肌の方や、技術に打ち込んできた方は、その技術が「当たり前」になっています。当たり前すぎて、何がすごいのか、自分では気づきにくい。そして、それをお客様の言葉に言い換えることは、技術を磨くのとは、まったく別の能力です。
だからこそ、翻訳役が要ります。社内に、技術とお客様の間をつなげる人がいるか。あるいは、外部の目を借りて、自社の技術の価値を、改めて言葉にしてみる。この作業をした会社だけが、持っている技術を、選ばれる理由として使えるようになるのだと、私は思っています。
おわりに
「技術力がある」。この言葉自体は、決して間違いではありません。けれど、そのままでは、残念ながらお客様には届きません。
大切なのは、その技術力が、お客様にとって何をもたらすのか。数字で、事例で、具体的に語ること。「技術力があります」で止めず、「だから、あなたにこういう良いことがあります」まで、言葉を尽くすこと。そこまでやって、技術は、はじめて強みとして生きるのだと感じています。
あなたの会社が磨いてきた技術には、必ず価値があります。ただ、その価値を、まだ言葉にしきれていないだけかもしれません。それを一緒に翻訳することが、私の仕事の一つだと信じています。
当社では、社外CFOとして、また営業の視点から、経営者の皆さまが自社の技術や強みを「お客様に伝わる言葉」へと翻訳するお手伝いを、現場目線で行っています。良いものを作っているのに、なぜか伝わらない。そう感じておられるときは、ぜひお気軽にご相談ください。