「あいつとは、そんな話をしなくても分かり合ってますから」。
共同創業者について尋ねたときに、こう返ってくることが、案外多いのです。悪気はまったくありません。むしろ、信頼している証拠です。二人で夜中まで議論して、二人で最初の一件を取ってきた。そういう関係だからこそ、細かい取り決めなど、水を差すように感じられるのだと思います。
けれど、私がこれまで見てきた限り、共同創業者の話がこじれるのは、たいてい「仲が悪くなってから」ではありません。仲が良いうちに、何も決めていなかったことが、後になって表に出てくるのです。
今日は、そのことについてお話ししたいと思います。
信頼は、取り決めの代わりにはならない
共同創業というのは、不思議なもので、始まりの熱量がとても高い。だからこそ、話しにくいことは、自然に後回しになります。
誰がいくら出すのか。株はどう分けるのか。どちらが最終的に決めるのか。どちらかが抜けるとき、その株はどうなるのか。
どれも、聞くだけで少し気まずい話です。相手を疑っているように思われたくない。そういう心理が働きます。
けれど、信頼と、取り決めは、まったく別のものです。
信頼は、関係を前に進める力です。取り決めは、関係が揺れたときに、二人を守る枠です。前に進む力があるからといって、枠がいらないわけではありません。むしろ、勢いよく走る車ほど、ブレーキとハンドルは要る。私はそう思っています。
揉めるのは、金ではなく「納得」である
共同創業者の間で問題になるのは、表面上はお金や株の話です。けれど、話をよく聞いてみると、本当に引っかかっているのは、そこではないことが多い。
「自分のほうが動いているのに、同じ扱いなのはおかしい」。「あのとき、相談なく決められた」。「あれだけ言ったのに、聞いてもらえなかった」。
要は、納得していないのです。
そして、納得は、後からは作れません。
結果が出たあと、事業が伸びたあと、あるいは思ったように伸びなかったあとに、比率や役割を話し合おうとすると、必ずどちらかが「損をする側」になります。だから話がまとまらない。まだ何も起きていないうちに決めておけば、同じ内容でも、二人とも受け入れられるのです。
為替の現場で、私が学んだこと
私は若い頃、為替仲介の世界にいました。数字が秒単位で動く場所です。あの世界で徹底されていたのは、条件を、必ず先に、言葉にして確認するということでした。
金額、通貨、期日、どちら側か。当たり前のことを、面倒がらずに口に出して、相手と揃える。分かっているつもりで進めると、後で必ず食い違いが出る。それが取り返しのつかない事態につながることを、みな知っていたからです。
その後、保険、IT と業界を渡り歩き、契約の話にもずいぶん向き合ってきました。以前、『営業が押さえておくべき契約・法務の基礎|トラブルを防ぐ最低限の知識』という記事でも書きましたが、揉めごとの多くは、悪意ではなく、確認しなかったことから生まれます。
共同創業も、まったく同じだと感じています。
決めておくのは、たった四つでいい
とはいえ、いきなり分厚い契約書を作る話ではありません。私が、最低限これだけは話しておいたほうがいいと思っているのは、次の四つです。
- 株式の比率と、その根拠。半分ずつが公平とは限りません。なぜその比率なのかを、二人が言葉で説明できるかどうかが大事です。
- 最終的に決めるのは誰か。意見が割れたとき、どちらが決めるのか。ここが空白のままだと、決まらないことが増えていきます。
- 役割と、時間の使い方。どちらがどこを持つのか。片方が本業を続けるなら、その前提も含めて確認しておきます。
- 抜けるときの扱い。いちばん話しにくく、いちばん効く項目です。辞めた人が株を持ち続ける状態は、後々、資金調達の場面で必ず引っかかります。
この四つを、うまくいっているうちに、一度紙に書く。それだけで、ずいぶん先の景色が変わります。
役割の空白は、いずれ不満に変わる
もう一つ、見落とされやすいのが役割の話です。
創業したての頃は、二人で何でもやります。営業も、請求書も、採用も。境目がないことが、むしろ強さになる時期です。私自身、起業した当初は経理も法務も一人で抱え、どこから手をつけるかで頭を悩ませていました。あの時期の、境目のない働き方はよく覚えています。
けれど、人が増え、仕事が分かれてくると、境目のなさは一転して曖昧さになります。誰の仕事でもない領域が生まれ、そこに落ちたものが放置される。そして「自分ばかりが拾っている」という感覚が積み上がっていきます。
不満は、仕事量からではなく、線引きの曖昧さから生まれる。
組織の初期設計については、以前、『創業期の事業を成長させる「最初の組織づくり」のポイント』という記事でも触れました。共同創業者同士の役割も、同じように、早い段階で一度線を引いておくといいと思います。
おわりに
取り決めをするというのは、相手を疑うことではありません。むしろ、この関係を長く続けたいという意思表示だと、私は思っています。
だから、揉めてから話すのではなく、まだ何も起きていない今のうちに、少し気まずい会話を一度だけしておく。たったそれだけのことで、数年後に失われるはずだった時間とお金と、そして関係が守られることがあります。
地味で、面倒で、盛り上がらない作業です。でも、こういう地味な一手が、会社をいちばん遠くまで連れて行ってくれるのだと、私は思っています。
一人で考えていると、あるいは二人だけで話していると、どうしても言いにくいことが残ります。そういうときは、間に第三者を入れるだけでも、話が進むことがあります。もしお困りのことがあれば、ぜひお気軽にご相談ください。現場目線で、一緒に考えていきたいと思っています。