創業期のキャッシュフロー管理|資金が尽きる前に手を打つ

「まだ、口座にお金はありますから」。

創業されて一年ほどの経営者の方から、そう聞いたことがあります。悪気のない、ごく自然な言葉です。実際、その時点では残高もありました。事業も、少しずつ動き始めていました。

けれど、私はその一言を聞いたとき、少し胸がざわつきました。というのは、その「ある」という感覚が、いちばん危ないタイミングだからです。資金は、なくなる瞬間ではなく、なくなる少し前に手を打つしかない。手を打てるのは、まだ余裕があるうちだけなのです。

今日は、そのことについてお話ししたいと思います。

会社が止まるのは、赤字のときではない

創業期の経営者の方と話していると、多くの方が「利益」を気にされます。今月は黒字だったか、赤字だったか。もちろん、大事な話です。

けれど、事業が止まるきっかけは、赤字ではありません。支払いができなくなったとき、です。

利益は意見、現金は事実、という言葉があります。

売上が立っても、入金は翌月末。仕入や外注費、家賃、社会保険料は、待ってくれません。この「ズレ」が、創業期にはとりわけ大きく出ます。取引条件を交渉する立場も弱いですし、まだ手元の厚みもない。だから、帳簿上は問題なさそうなのに、月末の残高だけがじりじり減っていく。

以前、『キャッシュフロー経営とは?利益が出ているのにお金がない理由』という記事でも書きましたが、利益と現金は、別の生き物のように動きます。創業期は、その差が最も残酷に出る時期だと思っています。

残高ではなく、「あと何か月もつか」で見る

では、何を見ればいいのか。私は、残高そのものより、「今のペースで、あと何か月もつか」を見るようにお伝えしています。

やり方は、案外シンプルです。

  • 今の現預金の残高
  • 毎月、確実に出ていくお金(家賃、人件費、固定費、返済)
  • 毎月、ほぼ確実に入ってくるお金

この三つを並べて、差し引きで何か月分あるかを出す。それだけです。エクセルでも、紙のノートでも構いません。

数字は、正確さより頻度です。

完璧な資金繰り表を作ろうとして、一度も作らないまま半年が過ぎる。これが、いちばんよくない。ざっくりでいいので、毎月同じ形で更新していく。三か月続けると、自社のお金の癖が見えてきます。どの月に出金が偏るのか、どの取引先の入金が遅いのか。癖が見えれば、先に手が打てます。

作り方の具体は、『資金繰り表の作り方と活用法|中小企業の「黒字倒産」を防ぐ』にまとめていますので、よろしければ併せてご覧ください。

手を打てる時期は、思っているより短い

資金対策には、必ず時間がかかります。ここを、私はいちばん強調したいところです。

創業融資の相談から着金まで、順調にいっても一か月以上。補助金なら、採択されても入金は事業実施の後です。取引条件の見直しも、相手のある話ですから、一朝一夕にはいきません。

つまり、残り二か月分になってから動き出すのでは、間に合わないのです。

資金は、余裕があるうちにしか調達できない。

金融機関の方の立場に立てば、当然の話です。追い込まれている会社に貸すより、まだ体力がある会社に貸したい。冷たいのではなく、それが仕事の筋です。だからこそ、残高が半年分あるうちに相談に行く。これが、いちばん強い動き方になります。

私も、口座の残高を毎朝見ていた

偉そうに書いていますが、私自身、この怖さを身体で知っている一人です。

起業したての頃、経理も財務も法務も、すべて自分でやらざるを得ない時期がありました。営業に出て、帰ってきて請求書を作り、夜に振込の確認をする。毎朝、パソコンを開いていちばん最初に見るのが、口座の残高でした。増えていれば安心し、減っていれば胃が重くなる。あの感覚は、今でもよく覚えています。

もっと前、為替仲介の世界にいた頃も、数字が動く現場にはいました。相場は、待ってくれません。判断を先送りした分だけ、条件は悪くなる。その感覚は、資金繰りとよく似ていると思います。

結局、私を落ち着かせてくれたのは、大きな戦略ではなく、月初に三十分だけ数字を並べる、という地味な習慣でした。

数字を怖がらないことが、いちばんの防御になる

資金繰りが不安なとき、人は数字を見なくなります。私も、そうでした。見れば不安になるから、見ない。けれど、見ないことで減るスピードが緩むわけではありません。

むしろ、早く見た人だけが、選べる手を持てます。

  • 入金を早める(前受け、着手金、請求の締めを早める)
  • 出金を後ろに倒す(支払条件の相談、固定費の見直し)
  • 外から入れる(創業融資、補助金、身の丈に合った借入)

どれも、早ければ選べて、遅ければ選べなくなる手です。要は、キャッシュフロー管理というのは、難しい会計技術の話ではなく、選択肢を残しておくための作業なのだと思います。

おわりに

創業期は、やることが多すぎて、目の前の売上に意識が向きます。それは、間違っていません。売上がなければ、そもそも続きません。

ただ、その横で、月に一度だけ現金の残りを数えておく。あと何か月もつのかを、はっきり口に出せるようにしておく。それだけで、打てる手の数はまるで変わってきます。地味で、面白みのない作業です。でも、会社を止めないのは、たぶんこういう作業なのだと、私は思っています。

一人で残高を眺めていると、不安ばかりが大きくなりがちです。もしお困りのことがあれば、ぜひお気軽にご相談ください。現場目線で、一緒に考えていきたいと思っています。

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