「なんとなく、今月は調子が良い気がします」。
経営者の方と話していると、こうした言葉を、よく耳にします。長年の勘は、たしかに大切です。私も、現場で培った肌感覚の価値を、疑ったことはありません。けれど、その「なんとなく」だけで、大事な判断を下してしまうのは、少しもったいない。私は、そう感じています。
今日は、勘に頼りきりの経営から一歩進んで、「数字を見て動く」会社になるには、どうすればいいのか。その入り口を、お話ししたいと思います。
数字は、勘を否定しない。裏づける
「データ活用」と聞くと、勘や経験を、否定されるように感じる方がいます。けれど、そうではありません。
数字は、勘を置き換えるものではなく、勘を裏づけるものです。
「調子が良い気がする」。その感覚を、売上の数字で確かめてみる。すると、本当に良いのか、思い込みだったのかが、はっきりします。もし数字が伴っていれば、自信を持って前に進める。伴っていなければ、早めに手を打てる。数字は、経営者の判断に、確かな足場を与えてくれるのです。
以前、『感覚を事実に変える。それが経営判断の出発点になる』という記事でも書きましたが、感覚を事実に変えること。それが、確かな判断の出発点になります。データ活用とは、突き詰めれば、この作業のことなのだと思います。
難しいツールは、要らない
データ活用と聞くと、高価なシステムや、専門のソフトが必要だと思われがちです。けれど、中小企業のはじめの一歩に、そんなものは要りません。
手元にある数字を、見える形にするだけで、十分です。
多くの会社には、すでに数字があります。売上。お客様の数。問い合わせの件数。かかった時間。これらを、ノートやエクセルに、月ごとに並べてみる。それだけで、これまで見えなかった流れが、浮かび上がってきます。
大切なのは、道具の立派さではなく、続けられること。凝った仕組みを作っても、続かなければ意味がありません。まずは、いちばん気になる数字を一つ、毎月書き留める。そんな小さな習慣から始めれば、いいのだと思います。
集めるだけでは、意味がない
ただし、ここで気をつけたいことがあります。数字は、集めることが目的ではありません。
私が社外CFOとして経営者の方に伴走するとき、よく目にするのが、「数字は出しているのに、それを見て動いていない」という状態です。きれいな資料はある。でも、判断が変わっていない。これでは、集めた意味がありません。
数字は、次の一手に、つなげてこそ意味を持つ。
先月より売上が落ちた。では、なぜか。何を変えるか。問い合わせが増えた。では、この波をどう活かすか。数字を「だから、どうする」に結びつけて、はじめて、データは力になります。以前、『分析が行動に変わらない、3つの構造的な理由』という記事でも触れましたが、数字も分析も、行動につながらなければ、ただの知識で終わってしまうのです。
見るべき数字は、多くなくていい
「では、何を見ればいいのか」。そう聞かれることがあります。
答えは、少なくていい、です。あれもこれもと数字を並べると、かえって何を見ればいいか分からなくなります。大切なのは、自社にとって、本当に大事な数字を、二つか三つに絞ることです。
その会社が何で成り立っているかによって、見るべき数字は変わります。売上そのものが大事な会社もあれば、リピート率が命綱の会社もある。まずは、「この数字が動くと、うちの経営が動く」というものを見つける。そこに、絞って目を向ける。数字は、多さではなく、選び方なのだと思っています。
おわりに
「数字を見て動く」会社になる。そう聞くと、大がかりで、難しいことのように思えるかもしれません。けれど、本当に必要なのは、立派なシステムでも、専門知識でもありません。
手元の数字を、見える形にする。大事な数字を、二つか三つに絞る。そして、その数字を、次の一手につなげる。この地味な積み重ねの中に、数字で動ける会社への道は、あるのだと思います。
勘と数字は、対立するものではありません。長年の勘に、数字という裏づけが加わったとき、経営の判断は、ぐっと確かなものになる。私は、そう信じています。
自社では、どの数字を見ればいいのか。集めた数字を、どう判断につなげればいいのか。一人で考えていると、なかなか進まないものです。もしお困りのことがあれば、ぜひお気軽にご相談ください。現場目線で、一緒に考えていきたいと思っています。