「公庫は聞いたことがあるんですが、区の融資って、実際どうなんですか」。
創業して間もない経営者の方から、こう聞かれることがあります。名前は知っている。パンフレットも見た。けれど、どうも輪郭がはっきりしない。だから、後回しになっている。
気持ちは、よく分かります。制度融資という言葉は、どこか役所的で、正直なところ、心が躍る響きではありません。
けれど、創業期の資金調達を考えるとき、この地味な制度を知らないまま進むのは、もったいないと私は思っています。今日は、そのことについてお話ししたいと思います。
制度融資は、三者で成り立っている
制度融資というのは、ひとことで言えば、地方自治体・金融機関・信用保証協会の三者が組んで実現する融資のことです。
お金を貸すのは、あくまで銀行や信用金庫といった金融機関です。そこに信用保証協会が保証をつけ、さらに自治体が利子の一部や保証料の一部を補助する。この三点セットで、創業間もない会社でも借りやすくしている、という仕組みです。
つまり、自治体がお金を配ってくれる制度ではありません。
ここを誤解したまま窓口に行くと、話が噛み合わなくなります。あくまで融資、つまり借金です。返済義務があり、審査もあります。補助金とはまったく性格が違うものだと、最初に押さえておいたほうがいい。以前、『補助金・融資・出資の違いと使い分け|中小企業の資金調達戦略』という記事でも書きましたが、この三つは似て非なるものです。混同したまま動くと、どこかで必ず時間を無駄にします。
「借りにくさ」を、外から埋める制度である
では、なぜわざわざ三者でやるのか。
創業したばかりの会社には、決算書がありません。実績もない。取引先も少ない。金融機関から見れば、判断材料がほとんどない相手です。貸したくないというより、判断のしようがない、というのが実際のところでしょう。
その空白を、信用保証協会の保証と、自治体の補助で埋める。それが制度融資の本質だと、私は理解しています。
だから、自己資金がほとんどない、事業の中身も固まっていない、という状態では、やはり通りません。制度があるからといって、無条件に借りられるわけではない。ここは正直にお伝えしておきたいところです。
公庫と、どちらか一方ではない
創業融資というと、まず日本政策金融公庫を思い浮かべる方が多いと思います。実際、そのルートは王道です。この点は『創業融資の審査に通るコツ|日本政策金融公庫を活用する方法』でも触れました。
ただ、制度融資と公庫は、どちらかを選ぶものではありません。両方を検討していい。
制度融資には、公庫にはない特徴があります。
- 自治体が利子や信用保証料を一部負担してくれる場合があり、実質的な負担が軽くなることがある
- 地元の金融機関との取引が、そこから始まる
- 自治体の窓口で、事前に相談できる場合がある
私が地味に大きいと思っているのは、二つ目です。制度融資をきっかけに、地元の信用金庫や地方銀行と口座を開き、担当者がつく。創業期に、顔の見える金融機関との接点ができることの価値は、あとから効いてきます。
一方で、手続きに関わる主体が多いぶん、時間はかかります。自治体の斡旋を受け、金融機関に申し込み、保証協会の審査を通る。急ぎの資金には向かない、というのが正直なところです。
制度は自治体ごとに、まったく違う
ここが、いちばん厄介で、いちばん大事なところです。
制度融資の中身は、都道府県や市区町村によってばらばらです。融資限度額も、金利も、保証料の補助率も、対象となる創業からの期間も違う。「創業支援融資」という似た名前でも、条件はまるで別物ということが普通にあります。
ですから、ネットで一般論を読んで分かった気になるのが、いちばん危ない。
調べ方は、案外シンプルです。自社の本店所在地の自治体名と「制度融資」「創業」で検索して、公式のページを開く。パンフレットを一度、通しで読む。分からなければ、産業振興課のような窓口に電話をしてみる。それだけで、輪郭はかなりはっきりします。
地味な作業です。でも、この三十分をやるかやらないかで、その後の選択肢の幅がまるで変わります。
私も、制度の全体像が見えていなかった
偉そうに書いていますが、私自身、起業したての頃は、この手の制度の地図をまったく持っていませんでした。
為替の世界にいた頃は、扱う金額の桁こそ大きかったものの、それは会社の看板の下での話です。自分の会社として、自分の名前で資金の相談に行くというのは、まったく別の経験でした。経理も財務も法務も一人で抱えて、何をどの順番で調べればいいのかさえ分からない。窓口に電話をかけるのに、妙に勇気が要った記憶があります。
結局、私を前に進めたのは、「まず一件、聞いてみる」という小さな一歩でした。
聞いてみると、案外、担当の方は丁寧に教えてくれます。決めなくていい、相談だけでいい。そう思えたときに、ようやく手が動きました。
数字より先に、事業の説明が問われる
制度融資でも、公庫でも、最終的に問われることは同じです。何をやる会社で、どこから売上が立ち、どうやって返すのか。
創業期は、実績がない。だから、説明の質がそのまま信用になります。
自己資金をいくら用意したか。創業に至るまでに、どんな経験を積んできたか。見込み客はいるのか。ここを数字と言葉で、地に足のついた形で説明できるかどうか。派手な将来像より、こちらのほうがずっと効きます。書き方については『融資・投資で通る事業計画書の作り方|創業期に押さえるべき6つの要素』にまとめてありますので、あわせて読んでいただければと思います。
おわりに
制度融資は、派手さのない、地味な制度です。手続きは煩雑で、時間もかかります。けれど、実績のない創業期の会社に、外から信用を貸してくれる仕組みが公的に用意されている。これは、素直にありがたいことだと思うのです。
大切なのは、制度を知識として知ることではなく、自分の自治体の制度を、自分の事業に当てはめて確かめてみること。その一手間を惜しまない会社が、結果として選択肢を持てるのだと、私は思っています。
一人で調べていると、どれが自社に合うのか判断がつかなくなることもあると思います。もしお困りのことがあれば、ぜひお気軽にご相談ください。現場目線で、一緒に考えていきたいと思っています。