創業期の採用は、人数ではなく「最初の一人」で決まる

「人が採れないんですよ。うちみたいな会社に、来てくれる人なんていないでしょう」。

創業まもない経営者の方から、こういう言葉を聞くことがあります。だいたい、少し笑いながら、けれど目は笑っていない。そういう言い方をされます。

気持ちは、痛いほど分かります。実績もない、知名度もない、給与も潤沢には出せない。求人票に書けることが、驚くほど少ない。

けれど、私は思うのです。創業期の採用がうまくいかない理由は、たいてい予算の額そのものではなく、「何を渡せる会社なのか」を、経営者自身が言葉にできていないことにあるのではないか、と。

今日は、そのことについてお話ししたいと思います。

採用は、募集より前にほとんど決まっている

求人を出す。応募が来ない。媒体を変える。それでも来ない。多くの場合、この繰り返しになります。

けれど、応募が来ない本当の理由は、媒体でも給与でもないことが、案外多い。「この会社に入ったら、自分は何をするのか」が、読んだ人に一切イメージできないのです。

営業を任せたい。バックオフィスを見てほしい。何でもやってくれる人がいい。──この「何でも」が、いちばん人を遠ざけます。

職務が曖昧な求人は、応募者にとっては、地図のない旅と同じです。

私は営業の世界に長くいましたが、売れない商品には、たいてい共通点がありました。売り手が、その商品を一言で説明できないのです。採用も、まったく同じだと感じています。自社という商品を、経営者が一言で説明できるかどうか。募集の前に、そこで勝負はほぼついている。

最初の一人は、能力より「補完」で選ぶ

創業期に、何人も採れる会社はまずありません。だからこそ、最初の一人をどこに置くかが、その後の数年を左右します。

ここで多くの方が、「自分と気の合う人」「自分に似たタイプ」を選びがちです。一緒にいて楽ですから、当然といえば当然です。

けれど、私はあえて逆をおすすめしたい。最初の一人は、自分が苦手なことを引き受けてくれる人であるべきだと思っています。

営業が得意な経営者なら、数字や事務を見てくれる人を。技術に強い経営者なら、外に出て人と会える人を。似た者同士で二人になっても、会社の弱点は二倍にはなりませんが、強みも一・二倍くらいにしかならない。

以前、『創業期の事業を成長させる「最初の組織づくり」のポイント』という記事でも書きましたが、組織というのは、人数が増えたから組織になるのではありません。役割が分かれた瞬間に、はじめて組織になります。最初の一人は、その「分け方」を決める一人でもあるのです。

お金で勝てないなら、ほかの通貨で払う

給与で大手に勝つのは、正直、無理です。そこは、素直に認めたほうがいい。

ただ、人が仕事を選ぶ理由は、給与だけではありません。裁量、成長、距離の近さ、自分の意見が通ること。創業期の会社には、これらが驚くほど潤沢にあります。

大企業では十年かかる経験が、ここでは一年で回ってくる。

私自身、為替仲介の世界にいた頃、いちばん力がついたのは、任される範囲が急に広がった時期でした。判断を自分でしなければならない。逃げ場がない。しんどいけれど、あの密度は、整った環境ではなかなか味わえません。ITや保険と業界を渡り歩いてきましたが、振り返ると、成長した時期はいつも「手が足りていない現場」にありました。

ですから、創業期の求人に書くべきことは、待遇の見劣りを取り繕う言葉ではなく、「ここでしか得られない経験」の中身だと思っています。何を任せるのか。どこまで決めていいのか。それを具体的に書く。地味ですが、これが効きます。

採ったあとの三か月が、いちばん危ない

採用は、入社がゴールではありません。むしろ、入ってからの三か月で、定着するかどうかがほぼ決まります。

創業期は、教える余裕がない。それは事実です。けれど、放っておくと、来てくれた人は「自分は必要とされているのだろうか」と静かに不安になっていきます。

私が大事だと思うのは、たいそうな研修制度ではなく、週に一度、十五分でいいので、二人で話す時間を固定することです。何に困っているか。何が分からないか。それだけを聞く。

放置は、悪意より人を遠ざけます。

起業したての頃、私は経理も法務も一人で抱えていて、人に何かを説明する時間そのものが惜しく感じられた時期がありました。けれど、あとから考えると、あの「惜しい」と思った十五分こそ、いちばん投資効率の高い時間だったのだろうと思います。

おわりに

創業期の採用は、華やかな話ではありません。大量に採れるわけでも、有名な人が来てくれるわけでもない。

けれど、たった一人でも、方向を同じくする人が加わると、会社の景色は確実に変わります。決断が、一人ぼっちではなくなるからです。

要は、限られた予算で人を集めるというのは、値引き合戦をすることではなく、自社が渡せるものを、正直に、具体的に差し出すこと。地味で、時間のかかる作業です。でも、そこにしか、長く一緒に働ける仲間との出会いはないのだと、私は思っています。

一人で考えていると、自社の魅力ほど見えにくくなるものです。もしお困りのことがあれば、ぜひお気軽にご相談ください。現場目線で、一緒に考えていきたいと思っています。

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