「銀行には、あまり悪い数字は見せたくなくて」。
経営者の方から、そんな本音をうかがうことがあります。資金繰りが厳しい。来月の支払いが、少し不安だ。そうした弱みを、金融機関や取引先に知られたくない。だから、なるべく良い顔をして、都合の悪いところは、そっと隠しておく。その気持ちは、痛いほど分かります。私自身、そう思っていた時期があるからです。
けれど、長く経営と財務の現場を見てきて、はっきりと感じることがあります。
資金繰りの弱点は、隠すほど信用を失い、伝えるほど信用に変わります。
今回は、なぜそう言えるのか。かつて資金繰りに苦しんだ、私自身の経験も交えながら、お話ししたいと思います。
私も、資金繰りに苦しんだ一人です
私は独立して会社を興したとき、経理も財務も法務も、たった一人で抱えていました。
営業には自信がありました。けれど、いざ経営者になってみると、いちばん重くのしかかってきたのは、資金繰りでした。目の前の支払いに追われ、来月の資金をどう回すか、そればかり考えていた時期があります。あの、胃のあたりが締めつけられるような感覚は、今も忘れられません。
だからこそ、資金繰りの弱みを人に見せたくない、という気持ちは、心底よく分かるのです。弱っているときほど、それを悟られたくない。強がってしまう。それは、経営者として、ごく自然な心の動きだと思います。
ただ、その自然な心の動きが、時として、事態を悪くすることがあるのです。
隠したことは、たいてい、あとで露見する
金融機関の担当者は、数字のプロです。
こちらが多少取り繕っても、決算書や試算表を見れば、資金繰りの実態は、かなりの部分が見えています。むしろ、隠そうとした形跡のほうが、目につきます。都合の悪いところを避けた説明。触れられたくなさそうな数字。そうした空気は、伝わるものです。
そして、いちばん怖いのは、隠していたことが後で露見したときです。「言っていなかった」という事実は、数字の悪さそのもの以上に、信用を損ないます。「この経営者は、都合の悪いことを隠す人だ」。そう思われた瞬間、その後、どんなに正しいことを言っても、割り引いて受け取られるようになります。
失われるのは、お金ではなく、信用です。そして、信用は、一度損なうと、取り戻すのに膨大な時間がかかります。
「伝え方」で、弱点は信用に変わる
では、どうすればいいのか。答えは、弱点を、正直に、けれど「伝え方」を工夫して伝えることです。
ただ「厳しいです」と弱音を吐くのとは、違います。大事なのは、三つをセットで伝えることだと、私は思っています。
一つめは、現状を正直に示すこと。資金繰りのどこが、なぜ厳しいのか。ごまかさず、事実として伝える。二つめは、その原因を、自分の言葉で分析していること。厳しさが、一時的なものなのか、構造的なものなのか。それを把握している姿を見せる。三つめは、では、どう手を打つのか、という具体策です。この三つがそろうと、同じ「厳しい」という話でも、受け取られ方がまるで変わります。
厳しい現状を、原因の分析と打ち手までセットで語れる経営者は、「この人は、自社を分かっている。任せられる」と受け止められます。弱点が、かえって信用の証しになるのです。
正直さは、価値観ではなく、戦略でもある
私は、信用というものを、経営でいちばん大切なものの一つだと考えてきました。以前、『目に見えない資産をどう評価するか、という経営課題』という記事でも書きましたが、信用は、決算書に載らないけれど、会社を支える最も大きな資産です。
その信用を築くうえで、弱点を正直に伝えることは、単に「誠実だから」という価値観の話にとどまりません。長い目で見れば、それがいちばん得をする、合理的な戦略でもあるのです。
都合の悪いことも隠さず話してくれる相手を、人は信頼します。金融機関も、取引先も、同じです。厳しいときこそ正直に相談してくれた経営者を、いざというときに支えたくなる。正直さは、まわりまわって、自社を守る力になるのだと、私は感じています。
おわりに
資金繰りに、弱点のない会社などありません。大なり小なり、どの会社も、資金のやりくりに頭を悩ませています。だから、弱点があること自体は、恥ずべきことではないのです。
問われているのは、その弱点と、どう向き合い、どう伝えるかです。隠せば、いずれ露見し、信用を失う。正直に、原因と打ち手を添えて伝えれば、弱点は信用に変わる。同じ弱点が、伝え方一つで、正反対の結果を生みます。
弱点を隠すことに使うエネルギーを、弱点を正直に伝え、手を打つことに向ける。そのほうが、結局は会社を強くするのだと、私は信じています。
当社では、社外CFOとして、資金繰りの実態を整理し、金融機関に信用をもって伝わる形にするお手伝いを、現場目線で行っています。資金繰りに不安を抱えている、銀行との関係に悩んでいる。そうしたときは、一人で抱え込まず、ぜひお気軽にご相談ください。