「決算、どうなりそうですか」と聞くと、「まあ、たぶん去年並みですかね」と返ってくる。
こういうやり取りを、私は本当に何度も経験してきました。悪気があるわけではありません。日々の売上も、入金も、支払いも、ちゃんと回っている。だから、なんとなくの手応えはある。けれど、その「なんとなく」が、数字として口から出てこない。
そして、決算が締まって、税理士さんから利益と納税額の連絡が来る。そこで初めて、「え、そんなに出るんですか」あるいは「思ったより出ませんでしたね」となる。
決算前の3ヶ月というのは、本当は、いちばん経営が動かせる時間です。今日は、そのことについてお話ししたいと思います。
決算は、締まった瞬間に手が出せなくなる
当たり前のことを言いますが、決算日を1日でも過ぎたら、その期の数字はもう動きません。
これは、頭では誰でも分かっています。けれど、実務の感覚としては、案外そうなっていない。決算が終わったあとに「もう少し何かできなかったか」と考え始める経営者が、驚くほど多いのです。
後から悔しがれる余地があるうちに、手を打つ。それだけの話なのですが、これが難しい。
なぜなら、期の途中は、目の前の仕事で手いっぱいだからです。受注を取り、納品し、請求し、支払う。その繰り返しのなかで、「今期の着地はどうなるか」を立ち止まって考える時間は、意図的につくらない限り、まず生まれません。
だから私は、決算月の3ヶ月前を、ひとつの区切りとして意識することをおすすめしています。3ヶ月あれば、まだ間に合うことがそれなりにあるからです。
着地見込みは、当てるためではなく、決めるために出す
着地見込みという言葉に、身構える方がいます。「予測なんて外れるでしょう」と。
たしかに、外れます。私も外してきました。けれど、着地見込みの本当の目的は、当てることではないと、私は思っています。
数字を置くのは、判断の材料をつくるためです。
やることは、そんなに複雑ではありません。決算3ヶ月前の時点で、直近までの実績を締める。そこに、残り3ヶ月の見込みを乗せる。売上は、受注済みのものと、確度の高い商談を分けて置く。費用は、固定費に、決まっている支払いを足していく。
これで、粗い着地の輪郭が出ます。粗くていいのです。大事なのは、「今のままいくと、だいたいこのあたりに着く」という共通の前提を、社内に一本置くことです。
この前提がないまま、「今期は利益が出そうだから何か使おう」と動くと、たいてい判断がぶれます。以前、『月次決算を経営に活かす方法|数字を「見るだけ」で終わらせない』という記事でも書きましたが、月次の数字は、見るためではなく、動くために使うものです。決算前の3ヶ月は、その積み重ねが、いちばん効いてくる時期でもあります。
利益と納税と資金は、別々の話ではない
決算前になると、「税金を減らしたい」という相談を受けることがあります。気持ちは、痛いほど分かります。私も一人で会社を回していた時期に、納税の通知を見て、机の前でしばらく動けなかったことがあります。
ただ、ここで一度、整理しておきたいことがあります。
利益を減らすことと、お金を残すことは、同じではありません。
たとえば、期末に何かを購入して費用にすれば、たしかにその期の利益は下がり、税額も下がります。けれど、支払った金額のほうが、減った税額より大きい。つまり、手元のお金は減っています。それが本当に必要な投資なら、まったく問題ありません。むしろ良い判断です。けれど、「税金を払いたくないから」という理由だけで動くと、翌期の資金繰りが細くなる。
ここは、『キャッシュフロー経営とは?利益が出ているのにお金がない理由』でも触れたところと、地続きの話です。利益、納税、そして手元資金。この三つを、同じテーブルの上に並べて考える。決算前の3ヶ月は、そのための時間でもあると、私は思っています。
それに、利益を無理に圧縮すると、決算書は当然、その姿になります。銀行はそれを見ます。翌期に融資を考えているなら、目先の税額だけで判断するのは、正直、もったいない。
私が為替の現場で学んだのは、締めの時間の重み
私は若い頃、為替の仲介の世界にいました。
あの世界は、時間の区切りが、とにかくはっきりしています。市場が動いている間は、判断できる。けれど、閉じた瞬間に、その日のポジションはもう変えられない。だから、締めが近づくにつれて、みんな手元の数字を確認し、残った時間で何ができるかを考えていました。
残り時間を意識すると、人の判断は変わります。
その後、保険、IT と業界を渡り歩いて、いま中小企業の経営に関わるようになって思うのは、会社の決算というのも、構造としては同じだということです。期首から期末までが、その期の持ち時間。決算日という締めがあって、そこを過ぎたら手は出せない。
違うのは、為替の1日と違って、会社の1年は、締めが遠くに感じられることです。だから、締めが近いことを、自分で意識しないといけない。3ヶ月前という区切りは、そのための、ごく実務的な仕掛けだと思っています。
3ヶ月あれば、まだ動かせるものがある
では、残り3ヶ月で、具体的に何ができるか。地味なものばかりですが、いくつか挙げてみます。
- 売上の計上時期を、契約や納品の実態に沿って正しく確認する
- 回収が遅れている売掛金に、期内に手をつける
- 使う予定のあった投資を、今期にするか翌期にするかを決める
- 賞与や決算賞与を出すなら、その原資と時期を検討する
- 翌期の資金繰りを、納税の支払い時期まで含めて引いておく
どれも派手さはありません。けれど、決算が締まってからでは、ひとつもできないことばかりです。
そして、これらを決めるには、やはり顧問税理士さんとの相談が要ります。決算が終わってから相談するのではなく、3ヶ月前に一度、着地見込みを持って話をする。それだけで、選べる手の数がずいぶん変わります。
おわりに
決算前の3ヶ月は、劇的に業績を変える時間ではありません。そこは、正直に言っておきたいところです。売上が急に倍になることも、赤字が黒字に化けることも、そうそう起きません。
けれど、着地の輪郭を先に描いておけば、慌てずに済む。納税額に驚かずに済む。翌期の資金繰りを、余裕を持って引ける。それは、経営者の判断の質を、静かに、けれど確実に上げてくれるものだと思います。
要は、決算を「報告されるもの」から「自分で着地させるもの」に変えていく。地味な作業ですが、これを毎期続けている会社は、やはり強い。私はそう感じています。
数字の見立ては、一人で抱えていると、どうしても不安が先に立ちます。もし、今期の着地が読めない、納税と資金繰りをどう並べて考えればいいか迷う、ということがあれば、ぜひお気軽にご相談ください。現場目線で、一緒に考えていきたいと思っています。