「戦略が、どうもうまくいかないんです」。
そんな相談を、経営者の方から受けることがあります。市場を分析し、競合を調べ、それなりに時間をかけて練った戦略のはずなのに、なぜか手応えがない。打ち手が空回りしている感覚だけが残る。話をうかがっていると、原因が、思わぬところにあることが少なくありません。
戦略そのものではなく、その手前。「今、自分の会社がどこにいるのか」という現状把握が、あいまいなままなのです。
今回は、現状把握なき戦略が、なぜ必ず的を外してしまうのか。私自身が現場で見てきたことをもとに、お話ししたいと思います。
地図はあるのに、現在地がわからない
戦略とは、いわば目的地までの道筋です。「どこへ向かうか」を決め、「どう進むか」を描く。とても大切なものです。
けれど、どんなに精緻な地図を手にしていても、自分が今どこに立っているのかがわからなければ、その地図は使えません。現在地がずれていれば、引いた線は、まるで見当違いの方向を指してしまう。
現状把握とは、この「現在地の確認」です。地味で、退屈で、つい飛ばしたくなる作業です。けれど、ここを飛ばした戦略は、必ずどこかで的を外します。
「うちは営業が弱い」の、その先へ
以前、ある製造業の経営者の方から、「うちは営業が弱いから、そこを立て直したい」というご相談を受けたことがありました。
営業の強化。一見、はっきりした課題のように聞こえます。けれど、少し立ち止まって、数字を一緒に見ていきました。
すると、見えてきたのは別の姿でした。新規の引き合いは、実は十分に来ていたのです。問題は、受注したあとの粗利が薄いこと。そして、既存のお客様からの追加受注が、ほとんど取れていないこと。つまり、「営業が弱い」のではなく、「利益の出る取引の作り方」と「お客様との関係の続け方」に、本当の課題があったのです。
もしあのまま、「営業が弱い」という思い込みのまま新規開拓に力を注いでいたら、どうなっていたか。おそらく、薄利の仕事がさらに増え、現場は疲弊し、利益はかえって細っていたはずです。
現状把握とは、思い込みを一枚ずつはがしていく作業だと、私は思っています。
財務は、会社の現在地を映す鏡
社外CFOとして経営者の方に伴走していると、この「現在地」を映してくれるのが、多くの場合、財務の数字だと感じます。
損益計算書、貸借対照表、そして資金繰り。これらは、会社が歩んできた結果が、正直に表れる鏡のようなものです。売上が伸びているのに資金繰りが苦しいのはなぜか。利益は出ているのに手元にお金が残らないのはなぜか。数字は、経営者の実感と現実とのズレを、静かに教えてくれます。
私自身、起業したての頃、経理も財務も法務も、たった一人で抱えていました。資金繰りに追われ、目の前の請求書を払うことで精一杯だった時期があります。あのとき、自社の現在地を冷静に見られていたかというと、正直、心もとない。数字を見ているようで、見えていなかった。そんな苦い記憶があります。
だからこそ、今、経営者の方と一緒に数字を眺めるとき、私はまず「現在地を、正確に知りましょう」とお伝えするようにしています。
把握するのは、数字だけではない
もっとも、現状把握は、財務の数字だけで完結するものではありません。
現場で何が起きているのか。お客様は、自社の何に価値を感じ、何に不満を抱いているのか。社員は、どこにやりがいを感じ、どこで力を持て余しているのか。数字に表れない部分にこそ、現在地を知る手がかりが眠っています。
決算書だけを見ていても、会社の全体像はつかめません。数字と現場、その両方を突き合わせて、はじめて現在地の輪郭が見えてきます。
現場に足を運び、人の声に耳を傾ける。地道な作業です。けれど、この地道さを省いた戦略ほど、あてにならないものはないと、私は感じています。
おわりに
戦略を立てる前に、まず立ち止まる。今、自分の会社がどこにいるのかを、数字と現場の両面から、正直に見つめ直す。
遠回りに思えるかもしれません。華々しさもありません。けれど、この一手間を惜しまなかった会社こそ、結局は的を外さない打ち手にたどり着いていく。30年以上、営業と経営の現場を歩いてきて、私はそう感じています。
現状把握は、戦略の前工程ではなく、戦略そのものの土台です。土台がぐらついていれば、その上にどんな立派な戦略を積み上げても、いずれ傾いてしまう。
立派な戦略を描くことよりも、まず自社の現在地を正確に知ること。それこそが、遠回りに見えて、一番の近道なのだと、私は信じています。
当社では、社外CFOとして財務の視点から、そして営業・DXの視点から、経営者の皆さまの「現在地の把握」を、現場目線で一緒に進めるお手伝いをしています。戦略づくりの手前で立ち止まりたいとき、ぜひお気軽にご相談ください。