「飛び込み営業」と聞いて、どんな印象を持たれるでしょうか。
アポイントもなく、知らないお店の扉を開ける。多くの場合、けげんな顔をされ、断られる。つらく、報われない仕事。そんなイメージを持つ方が、多いかもしれません。
私は、あるワインの輸入商社で営業代行をしていた時代に、この飛び込み営業を数多く経験しました。渋谷から青山一丁目あたりの、町の小さな飲食店を、一軒一軒回る毎日です。決して楽な仕事ではありませんでした。けれど、あの現場で学んだことは、今の私の財産になっています。今回は、飛び込み営業で本当に大切だったことを、当時の経験とともにお話ししたいと思います。
なぜ、電話ではなく「飛び込み」だったのか
飲食店への営業は、タイミングがすべてでした。
飲食店には、お客様で忙しい時間帯があります。ランチやディナーの最中に営業をかけても、相手にされるはずがありません。話を聞いてもらえるのは、ランチ営業が始まる前か、昼と夜の間の、15時から17時くらいの中休みの時間に限られていました。
では、その時間に電話をかければいいかというと、そうもいきません。中休みの時間帯は、料理人さんが仮眠を取っていることも多く、電話は、かえって迷惑になりかねないのです。だからこそ、電話ではなく、自分の足で、直接お店を訪ねる「飛び込み」が、いちばん理にかなった方法でした。
相手の都合に合わせて、こちらが動く。営業のやり方は、商品やお客様によって変わる。そのことを、現場で肌で学んだ日々でした。
飛び込み営業は、断られることから始まる
飛び込み営業の現実は、厳しいものです。
扉を開けても、忙しそうに「今、いいから」と追い返される。話を聞いてもらえずに終わる。そんなことの繰り返しです。一日に何軒も回って、まともに話を聞いてもらえるのは、ほんの数軒、ということも珍しくありませんでした。
正直、心が折れそうになる日もありました。けれど、続けるうちに、ひとつのことに気づきました。断られるのが当たり前のこの仕事で大切なのは、断られないことではなく、断られても続けられる「考え方」を持つことだったのです。
大切なのは、「数」と「淡々と続けること」
まず学んだのは、飛び込み営業は、確率の世界だということです。
何軒も回って、話を聞いてもらえるのが数軒あればいいほう。そのうち、取引につながるのは、さらにわずか。それが、飛び込み営業の現実です。
だとすれば、大切なのは、一軒一軒の結果に一喜一憂しないことです。断られても、落ち込まない。次のお店の扉を開ける。また断られても、また次へ。この「淡々と続ける力」こそが、最後に結果を分けます。
一軒断られるたびに落ち込んでいたら、とても続きません。「断られるのは当たり前。これは確率の仕事だ」。そう割り切って、行動の数を積み重ねる。地味ですが、これが飛び込み営業の、いちばん確かな王道でした。
でも、「数」だけでは、ものは売れない
とはいえ、ただ件数をこなせばいい、というわけでもありませんでした。
同じように飛び込んでも、まったく相手にされない店もあれば、なぜか話を聞いてもらえる店もある。その差は、どこにあるのか。現場で数をこなすうちに、少しずつ見えてきました。
違いは、「相手を見ているかどうか」でした。
断られ続けると、つい、こちらの都合だけで話してしまいがちです。「このワインを、置いてください」と。けれど、それでは相手の心は動きません。そうではなく、目の前のお店が、どんなお店で、どんなお客様が来て、今どんなことに困っているのか。そこに目を向けられるかどうかが、決定的な差を生んでいました。
飲食店にとって、ワインは、お店の魅力を高めるための一要素にすぎません。だからこそ、「このワインを売りたい」ではなく、「このお店を、もっと良くするお手伝いができないか」という目線で向き合えたとき、はじめて話を聞いてもらえたのだと思います。
飛び込み営業で、本当に大切だったこと
数多くの扉を開けて、私が最後にたどり着いた答えは、シンプルなものでした。
飛び込み営業で本当に大切だったのは、テクニックでも、話のうまさでもありません。「断られても、誠実であり続けること」。これに尽きると思います。
冷たく断られても、相手を恨まない。次に訪ねるときは、また誠実に向き合う。すぐに取引にならなくても、「感じのいい人だったな」という印象だけは残す。そうした誠実さの積み重ねが、ある日、思わぬ形で実を結ぶことがありました。
一度断ったお店が、しばらくして「あのとき来てくれた人に頼みたい」と、声をかけてくださる。あるいは、近くの別のお店を紹介してくださる。誠実な対応は、その場では報われなくても、巡り巡って返ってくる。これは、飛び込み営業の現場が、私に教えてくれた大切なことです。
あの経験が、今に活きている
飛び込み営業で身につけた力は、その後のすべての仕事に活きています。
断られても、めげない。淡々と行動を積み重ねる。相手の都合に合わせて動く。どんな相手にも、誠実に向き合う。これらは、業界や職種が変わっても、変わらず通用する、営業の土台となる力でした。
つらい現場でしたが、あのとき逃げずに続けたからこそ、今の自分があると思っています。渋谷や青山の街を歩き回ったあの日々は、私にとって、最高の訓練の場だったのです。
おわりに
飛び込み営業は、確かに厳しい仕事です。けれど、そこで学べることは、決して小さくありません。
断られても続ける力。相手を見る目。相手の都合に合わせる柔軟さ。そして、誠実であり続ける姿勢。これらは、すべての営業に通じる、本質的な力です。
もし今、飛び込み営業に苦しんでいる方がいたら、お伝えしたいことがあります。今のその苦労は、決して無駄になりません。淡々と、誠実に、続けていけば、必ずあなたの力になります。
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