「システムを入れたのに、かえって混乱してしまって」。
DXに取り組み始めた会社から、そんな話を聞くことがあります。原因をたどっていくと、多くの場合、あることに行き着きます。そもそも、自社の仕事のやり方が、整理されていなかったのです。
散らかった部屋に、新しい収納家具だけ買っても、片づきません。仕事も、同じです。今日は、DXやシステム化の「前」にやるべき、仕事の見える化と、業務マニュアルのつくり方について、お話ししたいと思います。
DXの前に、仕事を見える化する
DXと聞くと、すぐに道具の話に飛びつきたくなります。けれど、その前に、必ずやっておくべきことがあります。今の仕事を、目に見える形にすることです。
多くの会社では、仕事のやり方が、人の頭の中にしかありません。「あの人に聞けば分かる」。それで回っているうちは、いいのです。けれど、その状態のままシステムを入れても、何をどう置き換えればいいのか、分かりません。
見えないものは、整えられない。
だからこそ、まず見える化する。今、誰が、どんな手順で、何をやっているのか。それを書き出すこと。この地味な作業が、DXの、確かな土台になるのです。
マニュアルは、属人化を防ぐ盾になる
仕事を見える化する、いちばん現実的な方法が、業務マニュアルをつくることです。
マニュアルというと、堅苦しく聞こえるかもしれません。けれど、その本質は、「その人しかできない仕事」を、「誰でもできる仕事」に変えることにあります。つまり、属人化を防ぐ盾です。
以前、『属人化と取引先依存。放置される致命的な弱みの見極め方』という記事でも書きましたが、特定の一人に仕事が集中している状態は、会社にとって、致命的な弱みになり得ます。その人が倒れたら、辞めたら、会社が止まる。マニュアルは、この危うさから会社を守る、備えでもあるのです。
私自身、起業して、経理も財務も法務も、一人で抱えていた時期がありました。誰にも引き継げない。あの綱渡りの怖さを知っているからこそ、見える化の大切さを、身をもって感じています。
つくり方は、まず書き出すことから
では、どうつくるのか。難しく考える必要はありません。
まずは、いちばん属人化している業務を、一つ選ぶ。そして、その仕事をしている人に、やっている手順を、ひと通り書き出してもらう。最初は、箇条書きの、荒いメモで構いません。
「まず何をして、次に何をするか」。その順番を、言葉にする。これだけで、頭の中にあった仕事が、目に見える形に変わります。完璧を目指すと、いつまでも始められません。まずは粗くてもいいから、形にする。そこからしか、始まらないのです。
写真や、短い動画を添えるのも、良い方法です。文字では伝わりにくいコツも、目で見れば一目瞭然。ベテランだけが知っていた勘どころを、誰もが学べる形に変えられます。
つくって終わり、にしない
一つ、気をつけたいことがあります。マニュアルは、つくって終わりでは、意味がない、ということです。
仕事のやり方は、変わっていきます。古いまま放置されたマニュアルは、かえって現場を混乱させます。だからこそ、使いながら直していく。気づいた人が、その場で書き足せるくらいの、気軽さがちょうどいいのです。
立派で分厚いマニュアルより、みんなが使い、育てていく、生きたマニュアル。そのほうが、はるかに役に立ちます。大切なのは、体裁ではなく、実際に使われることなのだと思います。
おわりに
DXやシステム化は、たしかに、これからの中小企業に欠かせません。けれど、その前に、自社の仕事を、目に見える形に整えておく。この順番を、間違えないことが、何より大切です。
仕事の見える化は、地味で、手間のかかる作業です。すぐに華やかな成果は出ません。けれど、ここを丁寧にやった会社ほど、その後のDXが、すんなりと進んでいきます。急がば回れ。土台を整えることが、結局はいちばんの近道なのだと、私は思っています。
自社の、どの業務から見える化すればいいのか。どうマニュアルに落とせばいいのか。一人で進めると、なかなか手が回らないものです。もしお困りのことがあれば、ぜひお気軽にご相談ください。現場目線で、一緒に考えていきたいと思っています。