「こんな景気じゃ、どうにもならないですよ」。
経営者の方から、そんな言葉をうかがうことがあります。原材料の高騰、人手不足、金利の動き、法改正。会社を取り巻く外部環境は、目まぐるしく変わり、そのどれもが、自分たちの力ではどうにもできません。ため息をつきたくなる気持ちは、私にもよく分かります。
確かに、外部環境そのものは、変えられません。景気を、一社の力で好転させることはできない。それは、動かしようのない現実です。
けれど、変えられないものと、防げるものは、別です。
外部環境は変えられなくても、その「読み違え」は、経営判断で防ぐことができる。今回は、そのことについてお話ししたいと思います。
私は、変えられない世界の中にいました
私の社会人としての出発点は、外国為替仲介の世界でした。
銀行と銀行の間に立ち、ドル資金の取引を仲介する仕事です。相場は秒単位で動き、その動きは、自分の力ではまったくコントロールできません。世界のどこかで何かが起これば、為替はあっという間に振れる。まさに、「変えられない外部環境」のただ中にいる仕事でした。
その世界で学んだのは、市場を変えようとするのではなく、市場を「読み違えないこと」に全力を注ぐ、という姿勢でした。相場は動かせない。けれど、その動きから目をそらさず、冷静に読む努力はできる。この感覚は、経営を考えるうえでも、そのまま通じるものだと感じています。
環境は変えられなくても、それとどう向き合うかは、自分で選べるのです。
読み違えは、なぜ起きるのか
では、外部環境の読み違えは、なぜ起きるのでしょうか。
一つは、「見たいように見てしまう」からです。人は、自分に都合のいい情報を集め、都合の悪い情報から目をそらす癖があります。「この分野は、まだ伸びるはずだ」と思い込みたいとき、伸びている数字ばかりが目に入り、陰りを示す兆候を、無意識に軽く見てしまう。
もう一つは、「昨日までの当たり前が、明日も続く」と思い込むことです。これまで順調だったからといって、環境がこの先も同じである保証は、どこにもありません。変化の芽は、たいてい静かに、目立たない形で現れます。
読み違えの多くは、情報が足りないからではなく、思い込みが事実を上書きしてしまうことから起きるのだと、私は感じています。
読み違えを防ぐ、地味な習慣
では、どうすれば読み違えを防げるのか。特効薬はありません。ただ、地味な習慣が、確実に効きます。
一つは、都合の悪い情報こそ、意識して拾いに行くことです。自分の見立てに反する数字や声に、あえて耳を傾ける。「うまくいっている」と思っているときほど、その手応えを、一度疑ってみる。
以前、『感覚を事実に変える。それが経営判断の出発点になる』という記事で、感覚を数字で確かめることの大切さを書きました。外部環境についても、同じです。「なんとなく厳しそう」「たぶん大丈夫」といった肌感覚を、できる範囲で事実に置き換えてみる。市場の数字、お客様の生の声、取引先の様子。こうした事実を突き合わせると、思い込みのフィルターが、少しずつ外れていきます。
もう一つは、一人で判断しないことです。人は、自分の視点からは逃れられません。だからこそ、違う立場の人と、環境の見立てを話し合う。それだけで、見落としていた角度に気づけることがあります。
環境のせいにした瞬間、打ち手は止まる
ここで、一つだけ、気をつけたいことがあります。
「環境が悪いから」と言い切ってしまった瞬間、思考が止まってしまう、ということです。
もちろん、厳しい環境は実在します。それを軽んじるつもりはありません。けれど、「景気のせい」「時代のせい」で結論づけてしまうと、そこで打ち手を探す努力が止まります。同じ厳しい環境の中でも、踏みとどまり、むしろ伸びている会社は必ずあります。その違いは、環境そのものではなく、環境をどう読み、どう手を打ったかにあるのです。
変えられないものは、受け入れる。その上で、自分が動かせる範囲に、力を注ぐ。この切り分けができるかどうかが、経営を分けるのだと、私は思っています。
おわりに
外部環境は、変えられません。景気も、為替も、法改正も、一社の力ではどうにもならない。それは、認めるほかない現実です。
けれど、その環境をどう読むかは、私たちの手の中にあります。見たいように見ず、事実で確かめ、一人で決めず、環境のせいで思考を止めない。地味な習慣の積み重ねが、致命的な読み違えを防いでくれます。
変えられないものと、変えられるもの。その線を、冷静に引けること。それこそが、荒れた環境の中で会社を守り、前に進める経営者の力なのだと、私は信じています。
当社では、社外CFOとして財務の数字から、そして営業・DXの視点から、経営者の皆さまが外部環境を冷静に読み、確かな判断を下すためのお手伝いを、現場目線で行っています。先行きが見えにくく、判断に迷うときは、ぜひお気軽にご相談ください。