「弱みが、多すぎて、何から手をつければいいのか分からないんです」。
ある経営者の方から、そんな言葉をうかがったことがあります。自社の課題を、真剣に洗い出した方でした。営業も、財務も、人材育成も、ITも。書き出してみたら、直したいところが、山のように出てきた。そして、そのすべてに手をつけようとして、身動きが取れなくなっていたのです。
真面目な経営者ほど、この落とし穴にはまります。弱みが見えると、全部きちんと直したくなる。その気持ちは、痛いほど分かります。
けれど、弱みは、直せばいいというものではありません。今回は、なぜ「すべての弱みを直そうとする経営」が、かえって資源を浪費してしまうのか。その理由についてお話ししたいと思います。
中小企業の資源は、そもそも限られている
大前提として、確認しておきたいことがあります。
中小企業が使える資源、つまり人・モノ・お金・時間は、いつも限られている、ということです。
大企業のように、あらゆる部門に潤沢な人を割き、資金を投じる、というわけにはいきません。だからこそ、その限られた資源を「どこに使うか」という判断が、経営そのものを左右します。すべての弱みを、同じ熱量で直そうとすれば、どうなるか。一つひとつへの資源が薄まり、結局、どれも中途半端に終わってしまうのです。
弱みをすべて潰すことは、そもそも不可能です。そして、それを目指すこと自体が、貴重な資源の浪費になりかねません。
直すべき弱みと、割り切ってよい弱み
では、どう考えればいいのか。私は、弱みを二つに分けて見るようにしています。
一つは、放っておくと事業の土台を揺るがす、致命的な弱み。もう一つは、気にはなるけれど、事業の生死には直結しない弱みです。
たとえば、資金繰りの管理ができていない。これは、放っておけば会社が倒れかねない、致命的な弱みです。ここには、迷わず資源を注ぐべきです。一方で、たとえば「ホームページのデザインが少し古い」といった弱みは、気にはなっても、多くの場合、後回しにできます。
すべての弱みを、同じ重さで扱わない。この見極めこそが、経営者の仕事なのだと、私は思っています。
弱みを直すより、強みを伸ばすほうが効くこともある
もう一つ、大切な視点があります。
それは、弱みを直すことに使う資源を、強みを伸ばすことに回したほうが、成果につながる場合がある、ということです。
弱みを直しても、多くの場合、たどり着くのは「人並み」です。マイナスをゼロに近づける作業だからです。けれど、もともと強いところに資源を集中すれば、ゼロをプラスに、さらに大きなプラスへと伸ばせる可能性があります。以前、『「強み」を定義できない経営者が、価格競争に沈む理由』という記事でも書きましたが、他社に選ばれる理由は、たいてい弱みの克服ではなく、強みの中にあります。
すべての弱みをならすより、光る一点を、もっと光らせる。そのほうが、限られた資源が生きることは、少なくありません。
私自身、一人ですべてを抱えていました
偉そうに書いていますが、私自身、これができていなかった時期があります。
起業したての頃、私は経理も財務も法務も、たった一人で抱えていました。どれも大事だと分かっていたから、全部を自分でなんとかしようとしていたのです。けれど、結果として、どれも十分にはこなせず、資金繰りに苦しみました。今思えば、あのとき私に必要だったのは、すべてを自分で抱えることではなく、「何を人に任せ、自分はどこに集中するか」を決めることでした。
一人でできることには、限りがあります。だからこそ、優先順位をつけ、割り切る。この判断ができていれば、あれほど消耗せずにすんだのかもしれません。
すべてを抱えることは、頑張りではなく、判断の放棄なのだと、今になって思います。
おわりに
弱みを直視することは、大切です。前回、『弱みを直視できるかどうかは、それ自体が経営者の力量である』という記事でも、そのことに触れました。けれど、直視した弱みに、片っ端から手をつけることが正解かというと、そうではありません。
限られた資源を、どこに集中させるか。どの弱みは直し、どの弱みは割り切るか。そして、弱みの克服と強みの強化の、どちらに賭けるか。この判断の連続こそが、経営なのだと、私は感じています。
すべてを直そうとしない勇気。捨てる部分を決める覚悟。それは、諦めではなく、限りある資源を生かすための、経営者の大切な仕事なのだと、私は信じています。
当社では、社外CFOとして財務の視点から、そして営業・DXの視点から、経営者の皆さまが「どこに資源を集中すべきか」を見極めるお手伝いを、現場目線で行っています。課題は見えているけれど優先順位に迷う、というときは、ぜひお気軽にご相談ください。