「未経験でもいいから、なるべく早く戦力にしてほしいんです」。
採用の相談を受けるとき、こうした言葉を、よく耳にします。人手が足りない。今いる人間だけでは、手が回らない。だから、経験がなくても、とにかく早く育ってほしい。その気持ちは、痛いほどよく分かります。
けれど、「早く育てたい」という願いだけでは、人は育ちません。育てる側に、仕組みがなければ、未経験者は、ただ現場に放り込まれて、疲弊していくだけです。今日は、そのことについてお話ししたいと思います。
早く育てたいは、焦りの裏返しである
「早く戦力に」という言葉の奥には、たいてい、余裕のなさがあります。
人手が足りない。今月の数字が心配だ。だから、新人に、早く独り立ちしてほしい。その焦りは、決して間違ってはいません。けれど、焦りのままに現場へ送り出すと、新人は、何が正解か分からないまま、見よう見まねで動くしかなくなります。
焦りは、育成の設計図にはなりません。
勉強会は、知識を配る場ではない
新人教育というと、まず「勉強会」を思い浮かべる方が多いと思います。商品知識、業界の基礎、トークスクリプト。たしかに、これらは必要です。
ただ、私が現場で見てきた限り、知識をたくさん詰め込んだからといって、それだけで動ける人にはなりません。むしろ、知識が多すぎると、頭でっかちになって、実際のお客様を前にすると固まってしまう。そういう新人を、何人も見てきました。
勉強会の本当の役割は、知識を配ることではなく、「小さな成功体験を、安全な場でつくること」だと、私は思っています。ロールプレイをして、失敗しても誰にも迷惑がかからない場で、何度も練習させる。そのうえで、初めて現場に出す。順番を間違えると、育成は空回りします。
目標は、小さく刻むほど、力になる
「今月、契約を三件取ってきなさい」。こう言われて、未経験の新人がすぐに動けるでしょうか。まず動けません。ゴールが遠すぎて、何から手をつければいいのか分からないからです。
目標は、小さく刻むほど、力になる。
今週は、既存のお客様に十件電話をする。今日は、この一件のアポイントを取る。そこまで具体的に刻んで、初めて新人は「これなら、自分にもできそうだ」と感じられます。以前、「経験も力量もバラバラなチームで成果を出す方法」で、一人ひとりの力量を見極める、力量に合わせて、目標を設定する、という記事でも書きましたが、これは新人育成にも、まったく同じことが言えると感じています。
小さな目標の積み重ねが、自信をつくる
- 一日一件、電話をかける
- 一週間で、既存客に三件、フォローする
- ロールプレイで、断られる場面を三回経験する
こうした小さな達成の積み重ねが、やがて「自分にもできる」という実感につながっていきます。
私自身、素人から鍛えられた一人である
偉そうに書いていますが、私自身、為替の仲介の世界に飛び込んだときは、右も左も分かりませんでした。専門用語も知らない。相場の見方も分からない。それでも、先輩について、毎日、小さな確認作業を繰り返すうちに、少しずつ、体で覚えていきました。
保険の業界に移ったときも、ITの世界に入ったときも、同じでした。最初から大きな成果を求められたら、私はきっと、途中で潰れていたと思います。小さな一歩を、誰かが一緒に刻んでくれたから、続けられたのです。
新人にとっても、それは同じだと、私は思っています。
おわりに
営業未経験者を短期間で戦力にするというのは、決して特別な才能を見抜くことではありません。勉強会で小さな成功体験を積ませ、目標を小さく刻んで、達成感を重ねていく。地味で、時間のかかる作業です。けれど、そこにしか、人が本当に育つ道はないのだと、私は思っています。
もし、新人育成のやり方に迷っていることがあれば、一人で抱え込まず、ぜひお気軽にご相談ください。現場目線で、一緒に考えていきたいと思っています。