「あの人がいないと、あのお客様のことは分からない」。営業の現場で、こうした状況に心当たりはないでしょうか。
これが「営業の属人化」です。一見、優秀な営業がいる証のようにも見えますが、組織にとっては大きなリスクをはらんでいます。
属人化は、なぜ起こるのか
営業は、お客様との関係を個人で築いていく仕事です。商談の経緯、お客様の好み、過去のやり取り――こうした情報は、担当者の頭の中に蓄積されていきます。
その結果、「その人にしか分からない」状態が生まれます。本人にとっては当たり前のことでも、組織から見れば、情報が一人に集中している危うい状態です。担当者が異動・退職すれば、築いてきた関係や情報が一瞬で失われてしまいます。
本当の問題は「ナレッジが波及しないこと」
ここで一つ、誤解のないようにお伝えしたいことがあります。属人化そのものが悪いわけではない、ということです。優秀な営業が独自のやり方や深い顧客理解を持っていること自体は、むしろ組織の財産です。
本当の問題は、その個人が持つナレッジが、組織に波及しないことにあります。せっかくの知見が一人の中に閉じてしまえば、組織全体の力にはなりません。
そもそも、組織で営業をするメリットは、一人ひとりの力を足し算以上にできる点にあります。一人と一人が組めば、成果は2ではなく、3にも4にも5にもなり得る。むしろ、そうならなければ組織で営業をしている意味がありません。その観点に立つと、一人で業務を抱え込み、ナレッジを共有しないことは、組織の力を掛け算にできない明確なデメリットなのです。
属人化が組織にもたらすリスク
ナレッジが波及しないまま属人化が進むと、組織はいくつものリスクを抱えます。担当者が不在のときに対応できない。退職とともにお客様まで失う。成果が個人の力量に左右され、組織として安定しない。さらに、優秀な営業のやり方が共有されず、他のメンバーが育ちにくくなります。
私自身、担当者が変わったことでお客様が離れてしまった例を見てきました。既存顧客との関係を深め、情報を共有していく営業を組織として続けられなければ、個人の関係に頼りきった営業は、その個人がいなくなった瞬間に途切れてしまうのです。
「見える化」が、属人化を防ぐ
属人化を防ぐ鍵は、個人の頭の中にある情報を、組織で共有できる形に「見える化」することです。
商談の履歴、お客様の課題、次にすべきこと――これらを記録し、誰もが見られるようにする。そうすれば、担当者が代わっても、これまでの経緯を踏まえて引き継げます。お客様にとっても「また一から説明し直す」という負担がなくなり、組織として一貫した対応ができるようになります。何より、一人のナレッジがチーム全体に波及し、組織の力を掛け算にしていけるのです。
見える化は、デジタルで進める
こうした見える化を進めるうえで、デジタルの力は欠かせません。私自身、未経験メンバーを含むチームで短期間の必達目標に挑んだとき、SFA(営業支援システム)を使って案件の進捗やプロセスを見える化し、誰が何をすべきかを全員で共有できる状態をつくりました。
このように営業にこそデジタルを活かすことで、個人の頭の中にあった情報が、チーム全体で使える共有財産へと変わります。デジタルは、属人化を防ぎ、ナレッジを波及させるための強力な土台になるのです。
見える化は「仕組み」と「文化」の両輪
注意したいのは、ツールを導入するだけでは見える化は進まない、ということです。記録を入力する手間を負担に感じれば、現場は次第に使わなくなります。
大切なのは、入力を簡素化し、続けやすい仕組みにすること。そして、情報を共有することがチーム全体の成果につながるという「文化」を根づかせることです。仕組みと文化、この両輪がそろって初めて、見える化は定着します。
おわりに
属人化を防ぐことは、優秀な個人を否定することではありません。むしろ、優秀な個人のナレッジを組織全体の財産に変え、一人ひとりの力を掛け算にして、誰もが成果を出せる強い組織をつくることです。
「あの人がいないと分からない」から、「誰でも対応できる」へ。見える化は、その第一歩です。
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