「うちには、これといった強みがなくて」。
経営者の方とお話ししていると、この言葉を、驚くほどよく耳にします。決して謙遜ではなく、本当にそう思っておられる。自社の何が優れているのか、うまく言葉にできない。だから、お客様に選んでいただく理由も、はっきりとは説明できない。
そして、こうした会社ほど、気づけば価格競争に巻き込まれています。安くしなければ、選んでもらえない。値下げでしか勝負できない。利益は削られ、現場は疲れ、それでも受注のために、また値段を下げてしまう。
今回は、なぜ「強み」を定義できない会社が、価格競争に沈んでいくのか。その構造について、現場で見てきたことをもとに、お話ししたいと思います。
強みが言葉にならないと、値段でしか語れなくなる
お客様が何かを選ぶとき、必ず「選ぶ理由」があります。
品質、対応の速さ、安心感、担当者の人柄。理由は、さまざまです。けれど、その理由を、会社側が自分の言葉で語れなければ、どうなるでしょうか。
お客様に伝わるのは、価格だけになります。
強みが言葉にならない会社は、自分たちの価値を、値段という一つのものさしでしか表現できません。だから、比べられるのも値段だけ。安いか、高いか。その土俵に立たされた瞬間から、消耗戦が始まります。価格競争とは、強みを語れなくなった会社が、最後に立たされる場所なのだと、私は思っています。
「安さ」は、いちばん簡単で、いちばん危うい
値下げは、即効性があります。
お客様は喜び、その場では受注につながる。だから、つい手を出したくなる。けれど、値下げには、決定的な弱点があります。誰にでも、いつでも真似できてしまうことです。
自社が下げれば、競合も下げる。すると、また下げる。その繰り返しの先に待っているのは、体力勝負です。そして体力勝負では、多くの場合、規模の大きい会社が勝ちます。中小企業が、大手と同じ土俵で値段を競っても、勝ち目は薄い。
社外CFOとして数字を拝見していると、値下げの怖さは、はっきりと表れます。売上は保てても、粗利がじわじわと痩せていく。忙しいのに、手元にお金が残らない。以前、『現状把握なき戦略は、なぜ必ず的を外すのか』という記事でも触れましたが、数字は、こうした無理を正直に映し出します。値下げは、いちばん簡単で、いちばん危うい選択なのです。
強みは「特別なもの」でなくていい
「強みを定義しましょう」と申し上げると、多くの方が身構えます。うちには、そんな特別なものはない、と。
けれど、強みとは、必ずしも唯一無二の技術や、華々しい実績のことではありません。もっと地味なところに、眠っていることのほうが多いのです。
納期を一度も破ったことがない。無理な相談にも、嫌な顔をせず応えてきた。あの担当者だから安心して任せられる、とお客様に言っていただける。こうした、当たり前にやってきたことこそが、実は他社には簡単に真似できない強みだったりします。
私自身、為替、保険、ITと業界を渡り歩いてきましたが、扱う商品が変わっても、お客様が最後に頼ってくださったのは、商品そのものではありませんでした。誠実に向き合い続けたこと。その積み重ねを、信頼として見てくださっていたのだと思います。強みとは、案外、自分たちが「当たり前」と思って見過ごしているところに、静かに宿っているものです。
強みを定義する、地道な作業
では、その強みを、どうやって言葉にしていくのか。
近道はありません。まずは、お客様がなぜ自社を選んでくださったのか、その理由に、あらためて耳を傾けることです。既存のお客様に、「なぜ、うちに頼んでくださったのですか」と尋ねてみる。すると、自分たちが思ってもみなかった答えが返ってくることがあります。
作り手が強みだと思っていることと、お客様が価値だと感じていることは、しばしばずれています。このずれに気づき、お客様の言葉で自社の価値を捉え直す。そして、それを誰にでも伝わる言葉に磨いていく。
地味で、時間のかかる作業です。けれど、この一手間を踏んだ会社は、値段以外の理由で選ばれるようになっていきます。価格競争の土俵から、少しずつ降りられるようになるのです。
おわりに
価格競争に沈んでいく会社と、そうでない会社。その分かれ目は、技術力や規模の差である前に、「自社の強みを、言葉にできているかどうか」にあると、私は感じています。
強みは、大それたものでなくていい。当たり前に続けてきたこと、お客様が静かに評価してくださっていること。その中に、必ず種があります。それを掘り起こし、言葉にし、伝えていく。地道ですが、価格競争から抜け出す道は、いつもそこから始まるのだと、私は思っています。
当社では、社外CFOとして財務の数字から、そして営業の視点から、経営者の皆さまが自社の「強み」を定義し、価格以外の価値で選ばれる会社になるためのお手伝いを、現場目線で行っています。値下げに頼らない経営を目指したいとお考えのときは、ぜひお気軽にご相談ください。