「あの人が辞めたら、うちは回らなくなります」。
経営者の方が、半ば冗談のように、そうおっしゃることがあります。けれど、その言葉の裏には、笑えない現実が潜んでいます。冗談で口にできているうちは、まだいい。本当に「その日」が来たとき、会社は静かに立ち行かなくなるからです。
弱みには、いろいろあります。けれど、その中には、放置すると会社そのものを揺るがす、致命的なものがあります。
すべての弱みが、同じ重さではない。今日は、そのことについてお話ししたいと思います。
弱みには、優先順位がある
以前、『すべての弱みを直そうとする経営は、なぜ資源を浪費するのか』という記事でも書きましたが、弱みをすべて直そうとすると、経営の資源はたちまち尽きてしまいます。
だからこそ、大切なのは、優先順位をつけることです。直すべき弱みと、当面は付き合っていい弱み。この二つを分ける必要があります。
では、何を基準に分けるのか。私は、こう考えています。「もし現実になったら、会社が立ち行かなくなるか」。この一点です。多少の不便や非効率は、後回しでいい。けれど、会社の存続に関わる弱みだけは、放置してはいけないのです。
致命的な弱み、その一・属人化
致命的な弱みの筆頭が、属人化です。
特定の一人に、仕事が集中している。その人しか分からない。その人しかできない。中小企業では、ごく当たり前に起きていることです。
属人化は、平時には、むしろ強みに見えます。ベテランが一人いれば、多くが回る。効率的ですらあります。だからこそ、放置されやすい。
けれど、その一人が倒れたら。辞めたら。会社は、一気に止まります。私自身、起業したとき、経理も財務も法務も、一人で抱えていました。誰にも引き継げない状態が、どれほど危ういか。あのときの綱渡りの感覚は、今でも忘れられません。
属人化は、うまくいっているときほど、見えなくなる。
これが、いちばん怖いところです。
致命的な弱み、その二・取引先依存
もう一つが、取引先への依存です。
売上の大半を、一社に頼っている。その会社があるおかげで、経営が成り立っている。ありがたい話です。けれど、これもまた、致命的な弱みになり得ます。
その取引先の都合ひとつで、会社の未来が決まってしまうからです。値下げを求められれば、断りにくい。取引を縮小されれば、たちまち苦しくなる。相手に悪気がなくても、依存している側は、常に不利な立場に置かれます。
私は為替の世界にいた頃、相場という、自分では変えられない大きなものの中で仕事をしていました。変えられないものに、自社の命運を握られる怖さ。それは、取引先依存の構造と、どこか通じるものがあると感じています。
見極めるには、「もし」を問うこと
では、致命的な弱みを、どう見極めるのか。特別な分析は要りません。
「もし、あの人がいなくなったら」。「もし、あの取引先を失ったら」。この「もし」を、正直に問うてみることです。
答えるのが怖い問いほど、そこに致命的な弱みが隠れています。目をそらしたくなる。考えたくない。その反応こそが、危険信号なのです。以前、『弱みを直視できるかどうかは、それ自体が経営者の力量である』という記事でも書きましたが、弱みから目をそらさず、正面から見つめられること自体が、経営者に求められる力なのだと思います。
そして、見極めたら、少しずつでも手を打つ。属人化なら、仕事を書き出し、分け合う。取引先依存なら、時間をかけて、取引先を増やしていく。一朝一夕には終わりません。だからこそ、まだ余裕のある「今」から始めることが、何より大切なのだと思います。
おわりに
属人化も、取引先依存も、平時には問題として表面化しません。むしろ、うまく回っているように見える。だからこそ、放置されます。
けれど、この二つは、いざというとき、会社の足元を根こそぎ崩しかねない弱みです。数ある弱みの中でも、優先して向き合うべきものだと、私は思っています。
「うちは大丈夫」と思いたくなる気持ちは、痛いほど分かります。私自身、そう思いたかった一人だからです。けれど、怖い「もし」から目をそらさず、余裕のあるうちに手を打っておく。それが、経営者にできる、最も現実的な備えなのだと思っています。
自社の弱みのうち、どれが致命的で、どこから手を打てばいいのか。その見極めと優先順位づけは、一人で抱えると、どうしても後回しになりがちです。もしお困りのことがあれば、ぜひお気軽にご相談ください。現場目線で、一緒に考えていきたいと思っています。