「DX、やらなきゃとは思うんです。でも、何から手をつければいいのか」。
経営者の方から、そんな声をよく聞きます。言葉ばかりが先行して、いざ自社でとなると、入り口が見えない。その戸惑いは、よく分かります。
私は、そういうとき、決まってこうお伝えします。まずは、バックオフィスから始めてみませんか、と。今日は、その中でも取り組みやすい、勤怠・労務管理のデジタル化について、お話ししたいと思います。
なぜ、バックオフィスからなのか
DXというと、新しい商品を生み出したり、売り方を変えたり、華やかな話を思い浮かべがちです。もちろん、それも大切です。
けれど、私がバックオフィスからをお勧めするのには、理由があります。効果が、目に見えて分かりやすいからです。
売上を変えるのは、時間がかかります。相手のあることだからです。一方、社内の事務作業は、自社の判断だけで変えられます。うまくいけば、すぐに手応えが返ってくる。この「小さな成功」が、次への自信になります。
大きな山より、まず登れる丘から。
これが、DXを続けるための、いちばんのコツだと、私は思っています。
勤怠・労務は、手間の宝庫
では、なぜ勤怠・労務なのか。それは、この分野が、手作業の負担がとりわけ大きいからです。
紙のタイムカードを集める。エクセルに打ち込む。残業時間を計算する。有給の残りを管理する。こうした作業に、毎月、多くの時間が費やされています。しかも、手作業には、必ず転記ミスや計算間違いが、つきまといます。
私自身、起業したての頃、こうした労務の作業を、一人で抱えていました。数字を一つ間違えれば、給与に響く。神経をすり減らしながら、電卓を叩いていた。あの時間の重さは、今でもよく覚えています。
勤怠管理のシステムを入れれば、打刻から集計まで、多くが自動になります。ミスも減る。人が確認や判断に使える時間が、増える。手間の宝庫だからこそ、デジタル化の効果が、いちばん実感しやすい分野なのです。
法改正への対応も、楽になる
もう一つ、見逃せない利点があります。法律の変化への対応です。
働き方に関わる法律は、たびたび改正されます。労働時間の上限や、休暇の扱い。そのたびに、手作業で対応しようとすると、抜け漏れが起きかねません。知らないうちに、法令に違反してしまう。それは、会社にとって、大きなリスクです。
システムを使えば、こうした変化への対応も、ずいぶん楽になります。長時間労働の兆しも、数字で早めに見えるようになる。社員を守り、会社を守る。労務のデジタル化には、そういう「守り」の意味もあるのだと思います。
いきなり全部、を目指さない
ただし、進め方には、コツがあります。いきなり、すべてを一度に変えようとしないことです。
勤怠、給与、経費、契約。バックオフィスには、いろいろな業務があります。これを全部まとめて変えようとすると、たいてい、現場が混乱して、途中で止まります。
まずは、いちばん手間のかかっている一つから。多くの会社では、それが勤怠管理です。一つがうまく回り出したら、次へ広げる。この順番を守ることが、遠回りに見えて、いちばん確かです。以前、『「次の一手」を、誰が・いつまでに・何をするかまで落とす』という記事でも書きましたが、何から手をつけるかを具体に決めることが、実行の第一歩なのです。
おわりに
DXは、何か特別で、大がかりなことのように聞こえます。けれど、その入り口は、意外なほど身近なところにあります。毎月の勤怠集計を、少し楽にする。その一歩も、立派なDXなのです。
バックオフィスの手間を減らせば、その分、人にしかできない仕事に、時間を回せます。守りを固めることが、攻めの余力を生む。地味ですが、これが中小企業らしい、堅実なDXの進め方だと、私は思っています。
自社では、どこから手をつければいいのか。どんな仕組みが合うのか。一人で判断するのが難しいと感じられたら、ぜひお気軽にご相談ください。現場目線で、一緒に考えていきたいと思っています。