「ツールは入れたんです。でも、なぜか、社内に定着しなくて」。
DXに取り組み始めた経営者の方から、そんな相談を受けることがあります。良いシステムを選んだ。お金もかけた。それなのに、現場が使ってくれない。動き出さない。
その原因は、たいてい、道具にはありません。「誰が、どう進めるか」が、決まっていないのです。今日は、DXを動かすための、社内体制のつくり方について、お話ししたいと思います。
DXが止まるのは、体制がないから
DXがうまくいかない理由を尋ねると、多くの方が「IT人材がいないから」とおっしゃいます。たしかに、専門知識を持つ人材の不足は、中小企業に共通する悩みです。
けれど、私は、それだけが原因ではないと感じています。もっと根っこにあるのは、「誰が責任を持って進めるか」が、曖昧なことです。
みんなの仕事は、誰の仕事にもなりません。
「会社全体でDXを進めよう」。掛け声は立派でも、旗を振る人がいなければ、現場は動きません。以前、『「強みを活かす」という総論が、意思決定を止める』という記事でも書きましたが、正しい総論ほど、具体に落とさないと、誰もが他人ごとになってしまうのです。
専任者がいなくても、始められる
「うちには、DX専任の担当なんて置けません」。そうおっしゃる方も、多いと思います。中小企業では、当然のことです。
けれど、専任者がいなくても、体制はつくれます。大切なのは、専門家を雇うことではなく、「この件は、この人が中心になる」と、旗振り役を一人決めることです。
その人が、すべてを一人でやる必要はありません。分からないことは、外部の力を借りればいい。役割は、社内の調整と、進み具合の管理です。誰かが「自分の担当だ」と引き受けている。それだけで、宙に浮いていた取り組みが、地に足のついたものに変わります。
肩書きより、当事者を一人つくること。ここが、はじめの一歩です。
けれど、経営者が丸投げしては、続かない
ここで、一つ、強くお伝えしておきたいことがあります。旗振り役を決めたからといって、経営者が丸投げしてはいけない、ということです。
DXは、単なる道具の入れ替えではありません。仕事のやり方そのものを、変えていく取り組みです。それは、時に、これまでのやり方を否定されたと感じる社員の、抵抗を生みます。この抵抗を越えられるのは、経営者の本気だけです。
「社長は、口では言うけれど、本当は関心がない」。現場がそう感じた瞬間、DXは止まります。逆に、経営者自身が、多少の不便を引き受けてでも変えようとしている姿を見せれば、現場もついてきます。
私自身、起業して、経理も財務も自分で担っていた頃、痛感したことがあります。トップが逃げるものは、現場も本気にならない。担当を決めることと、経営者が旗を掲げ続けること。この両輪が、欠かせないのです。
現場の声を、置き去りにしない
もう一つ、大切なことがあります。実際にその仕組みを使うのは、現場の社員だ、ということです。
経営者と担当者だけで決めて、上から下ろす。これが、いちばん失敗しやすいやり方です。使う人の事情を無視した仕組みは、どんなに立派でも、使われません。
「今、どこに手間がかかっていますか」。「これがあると、楽になりますか」。現場に、そう問いかけながら進める。使う人の声を、設計に反映させる。手間はかかりますが、この一手間が、定着するかどうかを分けます。DXは、押しつけるものではなく、一緒につくるものなのだと思います。
おわりに
DXの成否は、どのツールを選ぶかより、どう進めるかで決まります。私は、そう感じています。
旗振り役を、一人決める。経営者が、本気で旗を掲げ続ける。そして、現場の声を、置き去りにしない。派手さはありませんが、この三つが揃ってはじめて、DXは動き、そして続いていきます。
体制づくりは、地味で、根気のいる作業です。けれど、ここを飛ばして道具だけ入れても、必ずどこかで止まる。だからこそ、まず土台を整えることが、遠回りに見えて、いちばんの近道なのだと、私は思っています。
自社では、誰を旗振り役にすればいいのか。どう現場を巻き込めばいいのか。一人で悩んでいると、なかなか前に進まないものです。もしお困りのことがあれば、ぜひお気軽にご相談ください。現場目線で、一緒に考えていきたいと思っています。