「どこの商品も、正直、あまり変わらないんだよね」。
営業をしていると、お客様から、こんな言葉を聞くことがあります。機能も、品質も、価格も、各社、横並び。商品そのもので、はっきりとした差をつけるのが、年々、難しくなっています。
では、商品で差別化できないとき、お客様は、何を基準に選ぶのでしょうか。私が30年の営業を通じて確信しているのは、最後の決め手は「人」だ、ということです。今回は、「人で選ばれる」とはどういうことか、お話ししたいと思います。
商品が横並びなら、最後は「人」で決まる
商品の機能や価格が、どこも似たようなものだったとき。お客様の頭の中では、こんな問いが立っています。「同じようなものなら、誰から買おうか」。
このとき、最後の決め手になるのが、「人」です。この担当者は、信頼できるか。困ったとき、ちゃんと対応してくれそうか。長く付き合っていけそうか。お客様は、商品の向こうにいる「人」を見て、判断しているのです。
考えてみれば、当たり前のことです。商品を買ったあとも、付き合いは続きます。何かトラブルがあれば、その担当者に連絡することになる。だからこそ、「誰から買うか」は、お客様にとって、商品の中身と同じくらい、あるいはそれ以上に、重要なのです。
「人で選ばれる」とは、信頼で選ばれること
「人で選ばれる」と言うと、話のうまさや、人当たりの良さを思い浮かべるかもしれません。けれど、私が思う「人で選ばれる」は、そういうことではありません。
本質は、「信頼で選ばれる」ということです。
お客様の話をよく聞いてくれる。約束を必ず守ってくれる。売ったあとも、誠実に対応してくれる。都合の悪いことも、正直に伝えてくれる。こうした一つひとつの積み重ねが、「この人は信頼できる」という評価になり、最後に「あなたから買いたい」という選択につながっていきます。
口先のうまさは、一時的には通用しても、長くは続きません。お客様は、意外なほど、こちらの誠実さを見抜いています。だからこそ、人で選ばれるためには、地道な信頼の積み重ねしか、道はないのです。
「人」で選ばれた、という経験
「人で選ばれる」とは何かを、私に強く教えてくれた、忘れられない出来事があります。
保険の仕事をしていた頃、ある集まりの研修旅行に参加したときのことです。研修のあとには、宴会がありました。参加されていたのは、当時の私より、かなり年上の経営者の方ばかり。料理は、一人ずつお膳で出されるのですが、年配の方々は、なかなか食べきれません。
すると、隣の方が「自分は食べられないから、食べてほしい」とおっしゃる。そのまた隣の方も「もったいないから、食べてくれ」と。私は当時、若かったこともあり、自分の食事はもちろん、いただいたものも、すべて、跡形もなくきれいに平らげました。周りの方々は、全部食べてくれたことに加えて、その食べっぷりのきれいさにも、感心しておられたようでした。
それから、2週間ほど経った頃でしょうか。その場に参加されていた一人の方から、連絡をいただきました。「保険の相談をしたいので、会社に来てほしい」と。
うかがってみると、その方は、中小企業の経理担当役員の方でした。すでに保険証書を2枚ほど用意してくださっていて、「これ、替えていいから、提案してほしい」とおっしゃるのです。
なぜ、私に声をかけてくださったのか。その理由を聞いて、私は、はっとしました。あの宴会で、出された食事も、いただいたものも、すべて跡形なく、きれいに平らげる姿を見て、「この人だったら信用できる」と思ってくださったというのです。
保険の知識でも、商品の説明でもありません。食事を残さず、きれいにいただく。そんな、仕事とはまったく関係のないところで、私は「信頼できる人間かどうか」を見られていたのです。
「人で選ばれる」は、一日ではつくれない
この経験から、私は大切なことを学びました。「人で選ばれる」状態は、商談のその場で、急につくれるものではない、ということです。
あの宴会で、私は「信頼されよう」と思って食べていたわけではありません。ただ、出されたものを大切にいただいただけです。けれど、人は、そうした何気ない振る舞いの中にこそ、その人の本質を見ています。普段の自分が、そのまま評価につながっていくのです。
信頼は、日々の小さな積み重ねの中で、少しずつ育っていきます。約束を守る。レスポンスを早くする。出されたものを大切にする。こうした地味な行いを、いざという商談の、何か月も、何年も前から、こつこつと続けてきたかどうか。それが、「最後にお客様が誰を選ぶか」という瞬間に、静かに効いてくるのです。
商品で差がつかない時代だからこそ、普段の振る舞いが、すべて自分への評価として積み上がっていきます。「いざとなったら、人で勝負すればいい」と考えていては、間に合いません。人で選ばれるための準備は、今、この瞬間から始まっているのです。
おわりに
商品の機能や価格で差をつけることは、これからますます難しくなっていくでしょう。けれど、それは悲観すべきことではありません。むしろ、「人」で選ばれる余地が、それだけ大きくなっている、ということだからです。
どんなに商品がコモディティ化しても、最後にお客様が向き合うのは、「人」です。誠実に話を聞き、約束を守り、信頼を積み重ねる。そして、仕事とは関係のないところでの、何気ない振る舞いまで含めて、すべてが自分という人間をつくっていく。その地道な営みこそが、商品では代えのきかない、あなただけの価値になります。商品で差別化できないときこそ、営業の真価が問われるのだと、私は考えています。
当社では、社外CFO、DXコンサルティングと並ぶ事業の柱として、営業コンサルティングに力を入れています。価格競争に巻き込まれず、「人」で選ばれる営業のあり方について、現場で培った実体験をもとに、一緒に考えていきたいと思っています。営業のあり方にお悩みの際は、ぜひ無料相談のお申し込みはこちら。